■ 2002.3月読書記録

 3/1 『カーマイン・レッド セトの神民(後編)』[霜島ケイ/角川ビーンズ文庫]

 5ヶ月ぶりに発売の、カーマイン・レッド後編。辺境の、一見すると何もない惑星に隠された恐るべき秘密を巡って、登場人物たちはそれを知る・知らないに関わらず、それぞれの理由で行動していきます。

 登場人物について。ふざけているようでやるべきことはしっかりやってのけたジャスパーや、任務を果たそうとしたチェンはかっこよかった。また、少しづつ年齢相応な言動を見せるようになったエイジュや、魂の声を聞く墓守の少女・アケルの天真爛漫さは、なんとも微笑ましい感じでしたね。己を特別であると信じて、無邪気かつ無責任な残酷さを身に宿したアシュリアと比べると、特に。

 アム・ドゥアトとその守護者を巡る物語はこれで終わりですが、ジャスパー&エイジュの旅はまだ続くようで。銀河最大の血族集団を敵にして、それでも飄々と生き延びそうなこの二人。彼らの新しい冒険が、また読めるといいなと思いました(要するにシリーズ化希望)

 3/2 『明日はマのつく風が吹く!』[喬林知/角川ビーンズ文庫]

 ほんのちょっぴりシリアスも混ぜつつ基本的には馬鹿馬鹿しいギャグで突っ走る「マのつく」シリーズ4冊目(←なんちゅう説明だ)

 今回は、ユーリ@魔王に隠し子(!)騒動発生。しかし、隠し子ちゃんはなにやら事情がある様子。小市民的正義感の持ち主のユーリは、怪我をした足の療養と彼女との話し合いを兼ねて温泉へと旅に出る(コンラッド&ヴォルフラム付)……ざっとこんなものでしょうか。当然、相変わらずおかしな習慣や生態系も続出します。パンダとコアラ……見かけはかわいいっぽいのに(笑) なお、お出かけの際にユーリが書き残した手紙のせいで、教育係はまた壊れますし(出家って…)、一人残された常識魔族のグウェンダルは、溜まった仕事の処理に加え、幼なじみのマッドマジカリスト・アニシナの実験に付き合わされたりと、苦労を背負い込んでおられました。合掌(笑)

 シリーズ開始当初から仄めかされていた、魔族三兄弟の次兄・コンラッドに関わる謎が少しづつ明らかにされつつあります。それに、ユーリの魔力発動にも色々とありそうで。一体、どういう結末になるのやら。

 3/8 『アリソン』[時雨沢恵一/電撃文庫]

巨大な大陸が一つだけある世界。人々は、自然条件も重なって二つの陣営に分かれ、長い間戦争を繰り返していた。東側の連邦で生活している学生のヴィルと軍人のアリソンは、共に17歳で幼なじみ。ある日、アリソンが休暇を利用してヴィルのところに遊びに来る。そこで二人は、街でも有名な嘘吐きの老人と出会う。老人は二人に、「戦争を終わらせることが出来る、それだけの価値がある宝」の話をする。ところが、その話の最中に、二人の目の前で老人が誘拐されてしまう。

 今回は、『キノの旅』と違ってひねてないなー。アクションシーンやお遊びシーンもしっかり準備されている、昔なつかしの少年少女冒険モノという印象。最後はさすがに上手く行き過ぎな気もするけれど……まぁ、泥沼は現実だけで十分ですしね。ともあれ、この人ってこういう作風もいけるんだなと変に感心してしまいました。でも、あとがきなどは相変わらずでしたね(笑)

 ヴィルとアリソンの冒険は幕が下りましたが、また他の人々(アリソンの両親やおばあさんのことなど)の物語も読んでみたい気がします。

 3/10 『ビートのディシプリン Side1[Exile]』[上遠野浩平/電撃文庫]

 これは、世界は一緒でもブギーとは別のシリーズ、という認識でいいのだろうか。題名に「ブギーポップ…」というのも入ってないし。
 まぁ、ブギー本人は登場しないとはいえ、ブギーシリーズの登場人物は一杯出てきてます。これについては見落としはしてないと思うのですが、ちょっと自信のない人もいる……しかし、現在友人にシリーズ全巻貸し出し中のため確認が出来ないし(苦笑) それはさておき。個人的には、帯に緑色の彼がいた時点でなんとなく嬉しかったです。まぁちょい役でしたけれど。

 ともあれ、先の展開が気になるところで終わってますし、次巻の発売が楽しみ。

 気になった事。確か、リセットの能力って『ホーリィ&ゴースト』でもちょっと出てきてたと思うのですが……なんか、今回の能力と微妙に違ってたような……単純に私の記憶違いかも知れないけれど。他にも色々と確認したい事があるのに、原典が手元にないのが痛い。

 3/20 『《運命のタロット》シリーズ (既刊20冊)』[皆川ゆか/講談社X文庫ティーンズハート]

 そろそろ新刊が出そうな気配なので、ちょっと古いシリーズですが布教のためにも紹介しようかと。ただ、さすがに一冊ずつコメント書くのは無謀だと思いましたので、既刊分をまとめてという変則的な方法を取りました。

 ではまず、大雑把な説明。この物語では、全ての事象は「アカシック・レコード」と呼ばれる代物に定められています。つまり「運命決定論」の世界というわけです。その中で、「運命のタロット」と呼ばれる謎のタロットに宿る精霊たちは、歴史をそのままの姿に保とうとする「ティターンズ」と、変えてしまおうとする「プロメテウス」の陣営に分かれ闘い続けているのです。平凡な女子高生・水元頼子ことライコは、ふとした偶然(…このシリーズに限っては、やたらと空しい台詞…)で《魔法使い》にかけられていた封印を解いてしまい、強制的に協力者(タロットの精霊は、基本的に二人ペアで行動し、互いに力を与え合う。相棒は「協力者」と呼ばれ、人間・精霊は問わない)となってしまいます。ライコは、フェーデ(精霊たちの闘いの総称。単純に自身の力を増すためのものもあれば、歴史の〝改変〟を主目的とし、ひいては自らの存在を賭けた大規模なものもある)に身近な人が巻き込まれたりしたこともあって嫌々ながら彼と一緒に戦うことに。その中で、ライコは次第に《魔法使い》に惹かれていくのですが……

 「ありがち」と思ったそこの貴方。甘いです。確かに、最初の数冊は典型的な「中身の薄そうな少女小説」のふりをしています。文章なんか、これを書くために読み直してる途中に軽くめまいがしたほどです(笑) ですが、精霊たちのフェーデが本格的に開始されると加速度的に話の様相が変わってくるのです。そして、最初の何も考えてなさそうな部分にも、既に伏線が張り巡らされてることに気がつきます。さらに、「時間」をキーワードに物語が展開されるが故に、物語の全体像がとんでもなく掴みづらい。なにしろ、時間移動できる精霊が何人か存在していて、その中には他者をも移動させる能力の持ち主も存在します。つまり、同一の時間軸に存在するからといって、同一の時間を生きているとは限らないわけで……。誰かにとっての過去が、誰かにとっての未来というのもざらにあることなのです。また、同じ存在であっても何かによってどうしようもないほどに変わってしまっていたりとか……

 また、時に残酷なことも容赦なく描写されてます。フェーデの結果だけでなく、第一部「運タロ」の後半に用意されているライコの親友だった女性・唯や、田村桂子(…この人は、さらに第二部でも強烈な存在感を発揮してくれます…)という人物との会話は、とにかく痛く、辛く、重い。第二部に当たる「真タロ」になると、とにかく酷いの一言で。カザフ編のあの展開はもう絶句するしかなかったし、その後のある登場人物――「彼女」の使われ方も。「ここまでやるか!」と何度言いたくなったことか。

 ついでに言えば、特に「真タロ」になってからやたらと様々な分野の薀蓄が出てきます。例えば、虚数とか出されたときはもう「はい?」という感じでしたし、さらにその上物理公式や理論が出てきた時には……素直に白旗揚げました(苦笑)

 とにかく、随所随所で「これ、やっぱりせめてホワイトハートで出すべきだったんじゃ……」と思うシリーズ。最初のあの文章さえ修正すれば、スニーカーや電撃でも十分いけるんじゃないかと勝手に思ってるんですけどね(私見ながら、イラストも少々きついかもしれない。「運タロ」の頃は割と良かったんだけど、「真タロ」になってから絵が変わってきちゃったんだよなぁ……)

 「幸せになりなさい」――『《女教皇》は未来を示す』で幾度か繰り返されるこの言葉は、とても重いものです。彼女は、最期の瞬間まで虚勢ではなく「幸せだった」と胸を張っていられるのか。それだけの強さを、今の逃げてばかりいる彼女がどのようにして得るのか。そして、いまだ明らかにならない数々の謎。その答えは、まもなく再開されるだろう物語で明らかになると信じて待っています。……本当に、幸せになって欲しいんですけどね……

第一部 ―― 「運命のタロット」
   1.『《魔法使い》にお願い?』
   2.『《恋人たち》は眠らない』
   3.『《運命の輪》よ、まわれ!』
   4.『《愚者》は風とともに』
   5.『《月》が私を惑わせる』
   6.『《節制》こそが身を守る』
   7.『《死神》の十字路』
   8.『《戦車》が兄とやってくる』
   9.『《太陽》は人々を照らす』
   10.『《皇帝》はうなずかない』
   11.『《神の家》は涙する』
   12.『《女帝》1995』
   13.『《女教皇》は未来を示す』
第二部 ――「真・運命のタロット」
   1.『《教皇》がiを説く』
   2.『《正義》は我にあり』
   3.『《力》よ、と叫ぶ者』
   4.『《審判》はレクイエムを歌う』
   5.『《悪魔》でも恋に生きる』
   6.『《星》はなんでも知っている』
   7.『《隠者》は影に』

 3/22 『D/dレスキュー フロイライン・ヴァルキリー』[一条理希/集英社スーパーダッシュ文庫]

 レスキューシリーズの最新刊。次で完結だということで、色々と急展開しております。

 今回は、れっきとした(?)テロ。その裏では、また別の思惑で進行している事件もあり……なんかもう、随所随所で吐き気がするほど気分が悪いです。これ以上言うことはないってぐらいに。テロリスト達の言い分も、いろんな人の考えも分からなくはないのだけれど。でも、それはそれとして気分が悪い……あの、一連のテロ以降の社会情勢に感じたのと同種の不快感・嫌悪感を抱きました。偽善かもしれませんけど……でも、こういう感情を抱かなくなったら人間として何かが間違ってると。そう思う私は、やはり根本的に甘いのでしょうね(苦笑)

 さて。今回はまた、非常に極悪なところで終わってくれてます。果たしてこの最悪な事件がどんな顛末を迎えるのか。可能な限り早めに最終巻が読みたいところです。……願わくば、救いのあるラストを迎えますように。

 3/30 『暁の天使たち』[茅田砂胡/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 茅田砂胡さんの新作。多分(というか絶対)これだけでは人物の把握等が不可能だと思われますので、『デルフィニア戦記』及び『スカーレット・ウィザード』を未読の方は、まずそちらをお読みになる事をお勧めいたします。

 さて、感想…………あ~、どう言えばいいんだろう。オールスターとまではいかないまでも、作者の別作品の登場人物が登場してのお祭騒ぎ、と言うのが一番近いかな。まぁ正直、思いつく限り一番適当な言葉は、作者自ら手がけた同人誌(ファンディスクでも可)ですね。

 で。今回は導入?なので、今後一体どうやって話を展開していくつもりなのかはある意味非常に気になります。まぁ、あの連中でまともに学園生活が送れるわけないし、またなんやかんやとトラブルに見舞われるんでしょうけど。
 そうそう、『スカウィ外伝』発売後、半ば冗談で言ってたレティー復活が実現して吃驚でした。しかし、彼まで復活したのは……デル戦のあの場面で涙した私の立場は一体なんだったのだろうと少し凹みましたが(苦笑) 次ぐらいで怪獣夫婦も復活するんでしょうか。しそうですねぇ……

 ……なんか微妙に機嫌が悪くないかって? いいえ、別に普段と何も変わらずいますとも(笑顔) あぁ、でも少しだけ呟きます。[個人的に、批判に耳を塞ぐという行為は、成長する機会をみすみす逃すことと同義だと思うんですが。そりゃ、賞賛の言葉は心地よいでしょうよ。でも、あまりそれに甘えてばかりいると、極少数の狂信的なファンしかついていかなくなると思うんですがね。その時は良くても、結果として自分で自分の首を絞めるんじゃないかな。書きたいものを書く、という行為そのものは否定しませんけれど……なんていうかなぁ、あとがきで居直るんじゃなくて作品の力で批判をねじ伏せて欲しいと思うのは、私の我侭なんでしょうか?]

 3/31 『夕なぎの街 十八番街の迷い猫』[渡辺まさき/富士見ファンタジア文庫]

錬金術師を目指す青年コウは、十八番街にある居酒屋「夕凪」で下働きをしながら独学を続けている。ある雨の日、一人の少女が夕凪に迷い込んできた。マイカという名のその少女は、なしくずしに夕凪の従業員に加わるが、それを契機にコウの日常には思わぬ事件が加わることになる。

 新人さんの作品だそうです。先日友人と待ち合わせしてた時、予定よりも早く到着してしまった為、時間潰しに買いました。

 知らない筈なのに、なんとなく懐かしい。そんな雰囲気をもった作品。それもそのはずというか、明治初期の東京をイメージして舞台を構成されたそうです。そりゃ確かに、日本人の感覚には馴染みやすいわ。

 全体的にまったりとしていて、良い感じに仕上がっています。まぁご都合主義や粗も結構目につきましたが、個人的には目をつぶれる範囲。デビュー作ということを考えると、上出来の部類ではないかと。

 そうそう、戦闘シーンはあまり要らないと思いました。出来が悪いわけではないのですが、そこだけ全体の雰囲気から浮いてるような気が。戦闘がなくても面白い物語は十分作れると思いますから、今後はその方向を目指してみて欲しい。我ながら我侭だと思いますが、正直な感想です。

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