「流血女神伝」の姉妹編(須賀さん曰く番外編)にあたる、海軍コメディ第2巻。今回は書下ろし。表紙の若ギアスことランゾットの顔色の良さに違和感を感じた私の認識は、何か間違ってるでしょうか。
嘘か誠か須賀さんが当初考えていたというタイトル『海駆けるアホ』が、いかに的確な題名だったか思い知った気分です。1巻でもたいがい皆アホでしたが、今回はさらに磨きがかかってます(笑) 加えて今回は、イラストも振るってました。とある場面のイラスト、あれは破壊力が凄まじすぎます。冗談ではなく笑い転げてしまった。多分、これは私だけではないはずだ。
話としては事件らしい事件は最後にしか起こらず、時折波乱が起こるものの基本的に賑やかな海軍生活の一幕、といったところでしょうか。もっとも、よくよく追求していくと結構重い話も含まれているのですが、湿っぽくなりすぎることなく、上手く処理してあったように思えます……なんというか、アホの力って偉大ですわ(笑)
ランゾットが知り合ったオレンディア(オーリア)は、ある事件がきっかけで数奇な人生を歩くことになった女性。この二人の恋愛とは言えない不思議な関係は、まぁ特に、ランゾットらしいといえばらしいものでした。もう一組の男女はというと……うーむ、正直意外な組合わせでした。しかも驚くのは、あの人は妻となる人の気持ちを知っていたってこと。全部承知して、それでもやはり彼女を愛していたのでしょうか。彼女も、その恋は諦めざるをえなかったけれども、夫となった人を愛して幸せにはなれた、と信じたいところですが……
その後をある程度知っているだけに、やはりところどころで妙にせつなくなってしまったりも(艦長がランゾットとコーアを評価している台詞等) 中でも一番ショックを受けたというか「うわー」と思ったのは、終章のある引用文。勿論この辺りの事情は、いずれ本編で語られるでしょうけど。やっぱりこの人……なのかな。予想しているとはいえ、そうだったらショックだなぁ(T_T) さらに、この引用文は今回主要人物であったオーリアが本編にも登場する可能性がかなり高いことがうかがえます(つーか、ルトヴィア関係でほぼ確実に登場するでしょうな) 歳を重ねた彼女が、果たしてどんな女性になっているのか、本編登場が楽しみです。
よくお邪魔するサイトのあちらこちらで好評だったので、購入してみました。富士見ミステリー大賞の準入選作。
いったい編集部はミステリをなんだと思ってるんだと真剣に疑問に感じる富士見ミステリー文庫にしては珍しく、ちゃんと法廷劇してる作品で面白かったです。予備審だの陪審制だの、現在の日本では導入されていない諸制度が数年前に導入されているという設定ですが、スピード感があって良い感じ。展開自体はオーソドックスというか、それほど捻ったネタでもなく。総評としては、勢いがあって一気に読めるけれどミステリとしては平均点、という印象ですかね。
キャラクターの話。主人公の弁護士・善行が必要以上に嫌味……いや、有能ではあるのですが。でもなんか、微妙に関わりあいにはなりたくないというか(笑) 他のキャラは、割と典型的だった感じ。欲を言えば、もうちょっとヒロインの性格を行動で示して欲しかったなぁ。周囲の人間が言葉で「彼女はこんなに良い人なんだ!」と力説すればするほど逆に、「えー、本当? つーかそこまでいくと人間味がなくないか?」と思いっきり懐疑的な見方をしてしまう人間なもので(^_^;
人気が出ればシリーズ化できそうな幕引きでしたが、現時点では続編があれば購入しようかと。ちなみにその場合は、有能なライバル検事の登場希望。事件ももっと複雑なのがいいなー(←趣味。)
どうでもいいけど、いくらなんでも警察が無能すぎだ。いや、有能だったらそもそも弁護士の話じゃなくなっちゃうだろうけれどさ(笑)
未知の存在・迷宮神群の影響を受け、本人が望んだか否かは関係なく異能を得た人々が織りなす物語「パラサイトムーン」第6巻にして、第2部「甲院編」の最終巻。今回は、ほぼオールキャスト出場でした。
てっきり甲院薫がラスボスになると思っていたのですが、シューウェンの介入により事態は思わぬ方向へ。おかげで、由姫の意識と薫の意識のせめぎあいがやや曖昧な決着になってしまって、それが残念だったかな。もっとも、薫は前巻の段階で精神的に揺らぎが生じていたし、今回はまたカーマインの指摘した事実やなんやかんやでかなりの衝撃を受けたりしていましたし。彼女が妄執を棄てて悔いなく逝けるのなら、これはこれでよかったのかも、とは思いますが……もう少し何かあるかと思ってたのですけどねー。シューウェンの狂気を孕んだ思想と行動の前に霞んでしまった感じで、やっぱり少し残念。
その他の登場人物達の話。真砂達と同じ研究所出身の子供のうち、カーマインの保護下にあったネイも合流、由姫を解放するために彼らの奮闘は続きます。中でも特に真砂が熱かった。うーん、若いっていいですねぇ(←微妙に違う) 山之内氏とカーマイン氏、外見は予想(=妄想)していたのと違っていたけど、内面は想像以上に格好良い小父様たちで満足。やはり大派閥の首魁たるもの、カリスマ・信念は備えていてほしいですものね。(←趣味。) 信念というか忠誠心といえば、これまで敵でしかなかった仙崎と座王、それから焔鉄衆。これまた格好良すぎでした。まさか、こいつらに泣かされるとは思わなかったなぁ……。それから、籤方君。何らかの動きを見せて欲しいなーとは思っていたけれど、正直意外なほど行動してみせてくれてました(いや、微妙に戦力にはなってないけれど) 今後もシリーズが続くなら、また出番があるといいなー。何しろ彼の剣術は座王仕込みなんだし、新しい相棒さえ見つかれば……駄目ですかね? あと、夢路やエスハはいつもどおり。フェルディナンはまた、ほとんど役に立ってない……(笑)
独り言。異界から帰還した某キャラクターの状態を見て「……SAN値が0になったか?」と呟いたのは絶対私だけではない……と思う。
さらに独り言。もう半分諦めているとはいえ、やっぱりこのシリーズはイラストが惜しい。絶対損してるって。このイラストでこの内容だとは想像できないでしょう。普通。だいたい、どの顔も童顔で可愛すぎるしさ……せっかく素敵な感じの小父様も多いのに勿体無い(←また趣味に走りまくった発言を…) もし7巻が発売されるなら、なんとか陰陽の方に描いてもらえないのかなぁ。
「ケイオス・ヘキサ」三部作をはじめ、独特な味がある作品を発表されている古橋氏の新作。今回は中華風の世界設定。
で、なんか既視感があるなーと思いながら読み進めていたのですが、あとがきまで読んで「やはり」と納得。中国武侠小説の大家、金庸にハマったそうで、その影響がかなり濃く出てる作品になっています。
しかし、武侠小説としてはまだまだ勢いに乗っていないというか。『サムライ・レンズマン』のように問答無用で読者をぐいぐい惹きつけるまでの領域には達していない、という感じです。まぁ、今回はまだ序章の部分ですし、もう少し巻を重ねれば古橋氏の持ち味と武侠小説のノリがうまく融合してくれるのではないかな、と今後の展開には期待しています。いや、むしろ切望。それから個人的には、アクション重視の武侠小説にするのなら、金庸もいいけれど古龍(注・著名な武侠小説作家の一人)作品のでたらめ加減(←褒め言葉)も是非取り入れて欲しいところですな。
余談。実は、「ケイオス・ヘキサ」三部作の関連作だったりしないだろうかと勝手に期待していたのですが……儚い夢でした(ふっ)
電撃大賞金賞受賞作。基本的にはコメディ調の話ですが、爆笑するというタイプではなく、どちらかといえば構成の妙にニヤリとする作品かと。映画で言えば、『パルプ・フィクション』のような作風ですね。
「酒」のことを知っているのはセラードとエニスだけで、他の面々は知らぬ間に巻き込まれていく、というのが少々意外でした。あらすじを読んだ段階では、それぞれが独自のルートで情報を入手して、血みどろの争奪戦が繰り広げられる、という内容を想像していたので。でも、これが結構面白い。場面転換が多いのが難と言えば難ですが、それでも次は誰と誰が遭遇するのかと、わくわくしながら読めました。
キャラクターでは、次の動きが読めない泥棒カップルが気に入りました。つーか彼ら、普通の会話もやたらハイテンションで。傍で聞いてたら、多分関西人としてツッコミまくるでしょうな(笑)
こちらも電撃大賞金賞受賞作。題名などからつい連想する作品(某田中氏の、例によって放置中の作品)があったりするのですが、あれみたいに陰険漫才が繰り広げられる作品ではなく、むしろ素直で爽やかな印象が残る作品。『バッカーノ!』が「パルプ・フィクション」なら、こちらは雰囲気的に宮崎アニメが近い感じ。
王道といえば王道なファンタジーで少々地味な印象が拭いきれませんが、一人の少女の成長物語としても、長い物語の冒頭の一節としてもよく出来ていたと思います。各都市の対立や出自も怪しい七人の姫君が擁立された背景などの描写も丁寧で、好感が持てましたし。なんというか、全体的に作品の空気が心地よかったです。
それから、登場人物もなかなか魅力的。個人的には、カラスミの護衛を務める忍のヒカゲがツボ。謎の衣装役も結構好き。語り手でありヒロインであるカラスミも、周囲の大人に奉られている可愛いだけの少女ではない、不思議な魅力があって良い感じです。
そして、電撃文庫らしく(?)、多分続編が出るんだろうなーという終わり方。まぁ、作品の雰囲気も気に入ったので、カラスミたちの行く末をのんびり見守っていこうか、という心境です。
電撃大賞、大賞受賞作。『キノの旅』から風刺や毒を取り外して、替わりに一つの明確なテーマを骨に物語を作り上げた、という印象。
大賞受賞作に相応しく物語の完成度は高かったと思うのですが、全体的に淡々と物語が続いていく上に、まとまりすぎていてそれほど印象に残らないっつーか。まぁ、良作だとは思いましたけれど。
少女の内面成長という点は、個人的に『七姫物語』のほうに軍配をあげますが、ハーヴェイの変化などはよかった。あと、兵長が素敵(外見はラジオだけど・笑) それから、ベッカも良かったなぁ……(遠い目)
文章的は読みやすい部類かと。ただ、句読点の少なさ、あるいは位置がひっかかりました。私の感覚に合わなかっただけかもしれないけど、妙に読み難かったんですよね……。
この話はこの話で綺麗に終わってると思うので、個人的には続編はあまり出して欲しくないかな。できれば、また別の作品を読んでみたいです。
個人的に贔屓にしている作家の一人、冲方氏の新作。PS2用ゲームとのタイアップ企画とのこと。
感想。冲方氏にしては、『微睡みのセフィロト』とはまた別の意味でとっつきやすい、正統派のファンタジー作品に仕上がっていた感じ。登場人物も魅力的ではあるけれど、性格などはやや典型的というか。まぁこの辺はゲームとの兼ね合いもあったのかもしれませんが。あと、ジークの特殊能力である魔兵軍団(レギオン)召喚などは、ゲーム的にもなかなか面白そうだと思いましたね。
物語は、ドラクロワを追うジークとその連れ(ジークの従士を務める少女ノヴィアと妖精のアリスハート、ドラクロワに里を滅ぼされた女性アーシア)の旅路と、その中で次第に浮き彫りになる過去――ジークとドラクロワ、そしてシーラという女性の絆――で構成されています。世界設定も良く出来ているし、良くも悪くも真摯な若者たちの戦いに惹きこまれ、最後まで一気に読めてしまいました。
ただ、これ一冊で完結させようとしたせいか(まさかこの一冊でドラクロワとの決着まで書くとは思わなかった)、内容を詰め込みすぎというか展開が速すぎだったかな、と。もう数冊に分けて、個々のエピソードをじっくり書き込んで欲しかったように思わなくもないです。
さて。来月には『月刊ドラゴンマガジン』で連載されていたジークとノヴィアの出会った頃の話が発売になるそうなので、そちらにも期待。……つーか冲方氏、今年はいきなり作品ラッシュだよなぁ。この調子で、『黒い季節』や『ばいばい、アース』が文庫化されるとか、『ピルグリム・イェーガー ドイツ農民戦争篇』が今年中に発売されればいいのだけれど(溜息)