■ 2004.8月読書記録

 8/1 『運命は剣を差し出す2 バンダル・アード=ケナード』[駒崎優/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA] →【bk1

 1巻が割ととんでもないところで終わった、逆恨みで追われる傭兵と医者の逃亡劇(←別に間違っちゃいないけど、でも何か違うような…)「バンダル・アード=ケナード」、半年振りの第2巻。
 当然のように、1巻の続きから始まるものだと思っていましたが。なんと、いきなり1巻の数年前、シャリース率いるバンダルに異国の青年が加わったところから始まるという離れ業が炸裂します。……って、絶体絶命っぽいヴァルベイドさんはあのまま3巻まで放置ですかっ!?とかなり本気で心配しましたが、ラスト一章はちゃんとあの続きでした。まぁ、そっちは割かれたページ数が絶対的に少ないため話はほとんど進んでませんが、全く進まないよりは良かったです(苦笑)

 とりあえず、バンダルで育てられた狼のエルディルがかわいかったです(イラスト含む) 女性分が少ないこの作品で、この子は数少ない潤いですな。
 で、そのエルディルちゃんの母親代わりになった異国の青年マドゥ=アリ。彼は特殊な状況で生まれ育ったため、最初はバンダルの仲間(いや、そもそも仲間と思ってなかったかも)にも馴染まずにいたわけですが。少しずつ少しずつ、隊長をはじめとする仲間たちと距離が縮まっていく過程がなかなか良かったです。

 さて。とりあえず次巻で一つの区切りになるそうですが、一体どんな展開になることやら。

 8/2 『そのとき君という光が』[高殿円/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 「そのとき」シリーズ3冊目。雑誌に掲載された短編1本も収録されてます。
 この巻の全体的な印象としては、個人的には微妙だったギャグが少し減って、ややシリアス方向に舵が切られたという感じでした。

 今回の舞台はデビュー作以来お馴染みのパルメニア。ひょんなことから宿敵とも言えるミルドレッドと一緒に行動することになったフラン。これまでフラン側から見れば単なる悪役というか敵でしかなかったミルドレッドですが、ゼフリートの忘却の呪いを受けているという点では彼女の同胞とも言えるわけで。最愛の妻に存在を忘れられ、親友までも忘却の波に襲われはじめている――という状況で、自分を忘れないでいてくれるフランを求める彼の切実な気持ちが、痛いほど伝わってきます。それだけに、最後のフランの決断は……いや、確かに彼女の言うこともそのとおりだと思うんだけど、でも、ミルドレッドの狂笑が、のちのフランの回想が、なんともやるせなかったです。フランの回想といえば、何気に怖いことさらりと言ってるし。もしかしてこのシリーズ、ハッピーエンドは無理そうですか……? あと、ミルドレッド関連ではロジェが……ううう(涙)
 あと、ゼフリートの防具の継承者4人目が登場。正直、意外な人物だったかも。確かに1巻のあと、彼女はどうなったんだろうと疑問には思っていたけれど、まさかこういう形で再登場とは。しかも、内面が結構つーかむしろかなり黒いよこの娘さんっ!? 彼女とフランの因縁がどうなるのかも気になるところ。そういえば、最後の継承者は誰なんだろう。名前だけはすでに出てるらしいけれど……?

 ともあれ、ここにきて盛り上がってきたこのシリーズ、4巻はどんな展開になるのか期待大です。……続刊、大丈夫ですよね?

 8/3 『彩雲国物語 花は紫宮に咲く』[雪乃紗衣/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 中華風どたばたコメディ(ちょっぴりシリアス)風味ファンタジー「彩雲国物語」第3巻。今回は1巻の1年後。昔からの夢を叶え、王朝初の女性官吏となった少女、秀麗の奮闘記。

 感想としては、ちょっと悪役が小物過ぎた気もするけれど、相変わらず気軽にテンポよく読めて普通に面白かった、という感じ。毎回それ以外の感想が残らないのはちょっとどうかと思ったりもしますが。個別の感想としては……女性ということへの蔑視や新人いびりにもめげず、前向きに頑張る秀麗が良い感じだと思いました。あと、相変わらず秀麗にラブコールを送っている王様も、それなりに男らしいところを見せてくれたりして満足。私としては、静蘭より王様を応援したいところ。

 ただ、登場人物はちょっと必要以上に多すぎるのではなかろうかと思ったり。時々、誰が誰だか分からなくなっちゃうし……。次巻で舞台が茶州に移るとのことですから、せめてそちらではもうちょっと整理して欲しいなぁ。ああ、でも今の段階で匂わされてるだけでも相当登場人物多そう……(ため息)

 あと、これは個人的趣味ですがやっぱりライバル的存在希望。女性だったらなお良し。……だって、今のままだと逆ハーレム状態がどんどん進行しそうで、なんか嫌なんです……。

 8/4 『緑翠のロクサーヌ 王を愛した風の乙女』[藍田真央/角川ビーンズ文庫] →【bk1

 昨年6月に発売された「黄金のアイオーニア」の脇キャラだったライアスと、暗殺者の少女・ロクサーヌの歴史風味恋物語。

 うーん、話自体は王道で悪くはない。悪くはないんだけど……なんというか、ぬるい印象。歴史的な部分が単なる背景以外の何物にもなってないとでもいいましょうか。現実の歴史をモデルにしているといえば聞こえはいいけれど、はっきりいってそのままなぞってるだけって感じで、あんまり魅力が感じられないんですよね。十二国記や女神伝などの傑作ランクほど作りこめとはいわないけれど、このままシリーズ化するとか今後もこの系統の作風で行くのならもうちょっと頑張って欲しいよなぁ、などと思ったり。せめて安易に現代語は使わないで欲しい……一気に気分が醒めるから。

 苦言ばかり書きましたが、ライアスとロクサーヌの恋物語としてはそう酷い出来ではなかったですよ。特にライアス。かつて愛した少女を死なせてしまった負い目から、ロクサーヌに正直になれない姿とか、結構ツボでした。

 8/5 『EDGE4 ~檻のない虜囚~』[とみなが貴和/講談社X文庫ホワイトハート] →【bk1

 心理捜査官(プロファイラー)・大滝錬摩の事件簿、3年4ヶ月ぶりの第4巻。
 嵐の前の静けさとでもいうのか、今回取り扱われた事件はそれほど大きなものではありませんでした。が、錬摩と宗一郎の関係は前巻に引き続き変容が続いています。

 さて。今回、錬摩が珍しく自発的に追うことになった事件は郊外で連続して起こった犬の虐殺事件(……犬好きな人間としては、正直正視に耐えないものが……)でした。このシリーズで一番の見所と勝手に認定しているのは犯人の心理描写なのですが、自分にもどこか覚えがあるような鬱屈した感情やらは今回も見事な出来でした。ただ、これまでの犯人たちのように自分の意識まで狂気の淵に引きずられるほどではなかったのは事件が事件だったからか、それとも年齢の問題か。もうずいぶん前に通り過ぎた年齢だもんなぁ……(なんとなく遠い目)
 一方、錬と宗の関係はまた微妙な方向に。現在のところ関係修復のきっかけすらないのが頭の痛いところ。次の事件で錬がトラウマ(?)を乗り越えられればなんとかなるとは思うものの、微妙に不安。
ところで、今回の件で宗の特殊能力はちとオールマイティすぎるなぁ、などと改めて思ったり。話の構成上、どうしても必要だといえるのは読心能力ぐらいじゃないかと思うのですけど。『黄昏の爆弾魔』事件の時に「跳んで」きたのは、あの時限定の火事場の馬鹿力ってことで。……でもまぁ、これは個人的な好みの問題ですね。

 そして。終幕間際に遂に錬摩に存在を示した例の人。うわあああ、そんな事件を起こしてくれたらどっかの記者やらの思うツボじゃないかーっ! いや、それがむしろそれが狙いなのかっ!? つーかそもそも、あの状況で何故に生きてるんですか貴方っ!!(微妙にパニック) えーととにかく、最終巻となる次巻でこの事件がどんな結末を迎えるのか気になるところ。できれば1年前後以内の新刊発売を期待です。……しかし、なんかいろんな意味でかなりしんどそうなエンディングしか想像できないのが嫌だなー(涙)

 ごく個人的なつぶやき。贅沢は言いません。錬摩のおばあさま、とりあえず柚留木だけでいいから黙らせてくれませんか(←目が笑ってない) ……いや、あとの二人はまだともかく(やってることは駄目というかむしろ最低だと思うけど、同情すべき点が全くないわけでもないし)、コイツだけはとにかく嫌なので……。

 8/8 『復活の地 II』[小川一水/ハヤカワ文庫JA] →【bk1

 とある惑星国家の首都を襲った大震災からの復興と、それに伴う諸々の人々の思惑を描いたSFシリーズ第2巻。

 今回は復興院総裁セイオが首都の復興のためあれこれ尽力するも、その強硬な施策に民衆からも理解を得られず次第に追い詰められ……みたいな内容。彼の政敵とも言えるサイテンがまた上手く立ち回ってくれるぶん、彼の愚直なまでの強引さ、それに反感を抱く民衆、という図式は読んでてしんどかったですね。ついでに、無意識に権力に驕っているセイオがまた……。一方、摂政のスミルが自分の周りだけに限らず次第に星外にまで見識を広げて成長していく姿は、とても好意的に応援できました。彼女には3巻でも是非頑張っていただきたいものです。そのほか、株を挙げた人物といえば都令のシンルージか。1巻では典型的な官僚というぐらいの描写しかされていなかったのに、今回は自分からあれこれ動こうとしていたのが好印象でした。
 それから今回は、他の星系を支配する列強政府も表に裏にあれこれと動いています。つーか、もうちょっとぐらい国力に差がないのかと思ってたんですが、最低でも子供と大人ぐらいの差があるんですねぇ……えーと、とりあえず陸軍はもうちょっとばかり実情を分析して謙虚になるべきじゃないかなーとか思ったり。実際に喧嘩売るのはまだ先だと思ってるとしても、ねぇ? これに関しては、天軍だけでなく今回スミルに同行して僅かでも他の惑星政府の実力を目の当たりにしたノート陸軍大尉も次巻で何か行動したりするのかどうか、楽しみなところもありますね。
 そして、最後に明らかになった地震の原因。……何でこの人はこう、微妙にデウス・エクス・マキナなものを持ってくるのが好きかなぁ。まぁ、今回のはこれまでと少し趣が違うっぽい気もするので、どうまとめるのか微妙に不安を感じつつも期待してます。

 ともあれ、着々と足元を固める首相サイテンや陸軍のグレイハン中将に対して、スミルやセイオはどう巻き返しを図るのか。そして、再びレンカに迫りつつある災害(の原因)はどうなるのか。第3巻が待ち遠しいですね。

 8/10 『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で 4』[渡瀬草一郎/電撃文庫] →【bk1

 微量のSF要素を含んだ正統派異世界ファンタジー4巻目。今回は国王と王太子の不慮の死から始まったアルセイフ王国の内乱が収束していく様が描かれています。

 感想。今回も面白かったです。内乱が割りとあっさり終結してしまったのが拍子抜けといえば拍子抜けでしたけど、この内乱をアルセイフを担う若い世代の台頭と激化するだろう他国との争いへの布石として捉えればこんなものかなーという気がしなくもなし。ともあれ、内乱は無事終結したものの、タートムやらラトロアやらの大国、そしてウィータ神殿との駆け引きが激化していくだろうと予測される、今後の展開が楽しみなところです。

 ……以下、うだうだと呟き。あまり楽しい内容じゃないので嫌な方は注意。
 先にも書きましたが、今回ももちろん面白かったんですよ。でも、その一方で言葉にしづらい不満も感じてしまって、読後感がいまいちすっきりしないのですよ……。何が物足りないのか自分でもよく分からないのがまたすっきりしない一因なんですが、思いつくことを強いて言えば、ちょっとフェリオを持ち上げすぎじゃないかなーと。いや、彼が優秀なのは分かってるんですが、なんというか、場面場面での客観的な描写より、周囲を使って彼を評価している部分がより多いような気がしたというか……ふと、昔の田中芳樹は良いことを言ったよなぁ、などという考えが脳裏をよぎったり。
 あと、集団戦闘の場面で氏の持ち味でもある淡白な文体がやや裏目に出てしまっているような印象でした。気分が盛り上がってしかるべき場面でも、それほど盛り上がらないというか。このあたりは演出の仕方で何とでもなったと思うだけに、惜しいなぁと思います。別にごてごて派手に飾り立ててほしいってわけではないんですけれど、薄化粧ぐらいは施してほしいという、そんな気持ち。とりあえず、この点は今後に期待ですね。

 まぁそんなこんなで首をひねるところもありましたが、何かと上手い作者氏ですから。今後あっと驚く展開はなくてもその展開で魅せてくださるだろうと信じています。

 8/12 『ぶたぶた日記(ダイアリー)』[矢崎存美/光文社文庫] →【bk1

 わーい、久しぶりのぶたぶたさんだー……って、表紙がぶたぶたさんの写真じゃないなんてそんなぁ(涙)

 涙に暮れていても仕方がないので、気を取り直して感想に行きましょう。
 えーと、生きてる(ぷりてぃな)ぶたのぬいぐるみ「山崎ぶたぶた」(ちなみに♂)さんが今回姿を現す場所はとあるカルチャースクール。彼は、都合が悪くなった義母(ぶたぶたさんは妻子持ちなのです。ちなみに、こちらは普通の人間)の代理として、日記エッセイ講座に通うことになったのです。全六回の講座に、メンバーは講師1人に生徒6名(ぶたぶたさん含む) この作品は6章から構成されていて、1章につき講座のメンバーが一人ずつぶたぶたさんが絡んでいくという展開となっています。

 程度に差はあるけれど、いろいろ悩んだり行きづまりを感じていたりする登場人物たちが、ぶたぶたさんとの交流を通して少し気持ちを軽くすると、大体の話はそんな内容。ノリがちょっと違うのは講師の磯貝さんの話と児玉さんの話、かな。まぁとにかく、どの短編もちょっと笑ってほんわかした気持ちになれる、そんなどこか優しいお話でした。

 8/23 『吉永さん家のガーゴイル 4』[田口仙年堂/ファミ通文庫] →【bk1

 ご町内ほのぼの+微妙に錬金術(?)なコメディ第4巻。副題をつけるなら、ガー君誕生秘話になるでしょうか。

 話の発端は、うっかり目覚まし機能をセットするのを忘れてしまったのか、「記憶発掘寝台」で3日間眠ったままの兎轄舎のお姉さんこと錬金術師の高原イヨを起こすために吉永家の兄妹とガー君が同じく「記憶発掘寝台」を使ってお姉さんの意識にもぐりこむ。そして、たどり着いた先は昭和2年の日本@お姉さんの記憶内。ちょうど、ガー君――門番型自動石像が3人の人物によって完成しようとしているところだった――というもの。

 今回は錬金術バトルはなりをひそめて、ガー君誕生にかかわった3人の男女とその周囲の人々の微妙な関係を中心にした物語が展開されます。コメディ要素は3巻に引き続きちょっと薄めに感じましたが、かといってシリアス一辺倒でもなく。ほのぼの笑えて、時々感動したりもするいいお話だったと思います。……ついでに個人的には、錬金術バトル路線に突き進まなかったのが嬉しくもあり。

 登場人物について。この話でイヨさんのイメージがずいぶん変わってしまいました。今までは「愉快な(何百年か生きてそうな)天才錬金術師のお姉さん」ぐらいの認識だったのですが、そのお姉さんの若かりし頃の人となりに触れ、さらに現実への帰り道で何でもないことのようにその後の、現在に至るまでの話を語るお姉さんの姿に、想像以上に深い人だったのだなぁ、と。しみじみ、少しばかり切ない気持ちで思いました。それから、ガー君も要所要所で良いキャラクターを見せてくれましたね。1巻で一番好きだった「佐々尾さん家のおばあちゃん」のエピソードを思い出させてくれた某バトル後の台詞とか、エピローグでのお姉さんへの問い掛けとか。

 で、次巻はあとがきを読む限りコメディ色が強い作品になりそうで。どんな話になるのかちょっと楽しみです。

 8/30 『スター・ダックス2 トリプル・スパイ』[草上仁/ソノラマ・ノベルス] →【bk1

犯罪・防犯産業立国を掲げる銀河辺境の惑星・ヴィトゲンシュタイン王国にスカウトされてしまった詐欺師のショウ。彼が犯罪ドリーム・チームを率いて行う次なる仕事は、開戦間近のリストビア帝国の兵站計画を探り出すことだった。ところが、スパイとしてリストビア軍の近衛師団に潜りこむショウのために準備された身分が、誰かに先に使われてしまう。ショウのほかにもスパイが潜りこんでいるのか、それとも?

 昨年発売された犯罪SFコンゲームの続刊。「ドリーム・チーム」の面々は、関係各国の思惑が交錯する中、リーダーのショウが十月病(ようするに五月病のようなもの)になってしまったりと、あれこれ大変な状況で仕事をすることになってしまいます。

 何せ登場人物が多いので、途中で誰がどういう状況にあるのかとかちょっと混乱したりもしたけれど(つーか、実は訓導小隊の面々はいまだに把握し切れてない……)、構図自体は前回より多少分かりやすかったような気がしなくもなし。まぁそれはさておいても、二転三転する状況や登場人物同士の腹の探り合いなどといった内容は前巻同様面白くて、最後まで楽しめました。

 このエピソードが終わったあと、ショウはすっかり「ドリーム・チーム」(というかヴィトゲンシュタイン王国の流儀にというか)に染まってしまったようだから精神的負担はいくらか軽くなるとしても、やっぱり「仕事」そのものでは無理難題を吹っかけられて苦労させられるんだろうなぁと多少意地悪く思いつつ。このチームの別の「仕事」の話も、またそのうち読めれば嬉しいですね。

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