■ 2004.12月読書記録

 12/1 『風の王国 女王の谷』[毛利志生子/集英社コバルト文庫] →【bk1

 唐の公主として吐蕃(現・チベット)に嫁いだ少女・翠蘭と吐蕃王リジムの物語、第3巻。今回翠蘭は、リジムの名代として同盟関係にある東方の小国連合の一角ゲルモロンに赴き、そこで女王継承に関する騒動に関わることに。

 あとがきで作者さんが「番外編の様相」とおっしゃってますが、確かにそんな印象の話でした。翠蘭も、どちらかといえば脇に回ってるし。今回の話は、ゲルモロン次期女王となるラトナを通して、様々な立場の人間の心の内を僅かなりとも垣間見たり推測していくと、そんな話でした。まぁ、話の雰囲気そのものやらは2巻までと大きく隔たっていないので、これまでが楽しめたのなら今回も普通に楽しめるかと。
 あと、2巻では出張中だった尉遅慧が今回の話で再登場しているのですが、彼に淡いロマンスめいたものが。相手の立場を思うと仕方が無いけれど、微妙に恋愛運薄い男ですな、彼。ちなみに、翠蘭とリジムは今回の話の間ほとんど別行動でしたが、一緒にいる間は新婚らしくらぶらぶしてくれてて満足でした(笑)

 ……それにしても。なまじ先を知ってるとちょっとした文章をつい深読みしてしまうなぁ……つーか、翠蘭の言葉がいちいち胸に痛いよ……。

 12/2 『癒しの手のアルス -森は全てを呑み込んで-』[渡瀬桂子/集英社コバルト文庫] →【bk1

 嘘つきコンビと彼らと関わった人々のドタバタ(ところにより涙ありの)物語、「癒しの手のアルス」の第4巻。

 今回の話は、温泉目当てに立ち寄った街で2年に1度生贄を要求してくる妖術使いの話を聞き、その妖術使いが住むという森へと向かったアルスとアーウィン。そこで彼らが出会ったのは妖精族の青年と彼の恋人だった、というような展開。なんとなく、これはそういうことかなーと見当はつけていましたが……犯した罪は許されるものではないけれど、でも、彼の気持ちも理解できなくはないあたり、一概にはなんとも言いかねる心境になってしまいます。そして、最後のあの出来事は奇跡かあるいは神の慈悲か。せめて、ゆっくり穏やかに眠ってください、とだけ……。
 一方、これまでにもいろいろ仄めかされていた妖精族の謎。今回、遂にその詳細をアルスが知ってしまいます(読者には開示されてませんが) アルスらしからぬショックの受けようからすると、相当のことなのでしょうが、はてさて。

 展開からして次巻で完結しそうな雰囲気ですが、あの展開からどうなるのか。楽しみなところです。

 あんまり話に関係ない独り言。前巻で登場したヴァイーダは、今回もちょこちょこ顔を出してます。出してるんですが……彼、職業暗殺者のクセに意外と天然にお茶目な性格してたのね……いや、勝手にイメージしてた人物像と微妙ながら決定的に隔たっていて、なんか衝撃が……。

 12/9 『撃墜魔女ヒミカIII』[荻野目悠樹/電撃文庫] →【bk1

 帝国飛行部隊の撃墜王という顔を持つ「魔女」ヒミカと彼女に関わる人々の物語、最終巻。

 今回は最終巻ということで、いろいろ話が急転しながら進んでいきます。ヒミカが宝石を求める謎や、彼女たちの世界の秘密や、2巻でちょっと登場したもう一人の魔女との対決、未熟なパイロットだったハルミの変化など、見所はそれなりに。
 でも、やはりいまひとつ物足りなさが……盛り上がってしかるべき場面でも、淡々と読み進めてしまえたのが残念でした。まぁ、私の場合はもともとこの作者氏の初期作品の雰囲気に惚れこんでたものですから、最近の作風に必要以上に辛口になってる感もありますが。……そろそろお別れ時なのかなぁ……

 ともあれ、無事完結。個人的にできれば次回作は、初期作品のようなダークな雰囲気の話が読みたいなぁ、と呟いてみたり(酷)

 12/10 『タクティカル・ジャッジメント6 湯けむりのディスティニー!大舌戦編』[師走トオル/富士見ミステリー文庫] →【bk1

 司法改革で陪審制等の諸制度が導入された近未来の日本で、性悪弁護士が違法スレスレの(つーかそれはむしろ違法だろうというような)手段を駆使して無罪をもぎ取る法廷劇第6巻。温泉旅行……もとい、地方出張裁判編後半戦の開始です。

 今回は4巻で善行が苦戦させられた東ヶ崎検事まで出張してきて、題名どおり大舌戦が繰り広げられ、おまけに弁護側・検察側双方のやたら長口上な(それとも現実でもあんなものなのか?)最終弁論もあったりしたおかげで、5巻で物足りなく感じた裁判シーンがたっぷり楽しめました。ちなみに、毎度お馴染みペテン紛いな裁判戦術に関してはまぁある意味いつもどおりなのでノーコメントということで(笑)

 次は民事関係になるかも、ということですが。一体どんな話になるか楽しみなところです。

 12/18 『カオス レギオンO5 -聖魔飛翔篇-』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 「カオス レギオン」シリーズ通算7巻目。6冊に及んだ過去篇の幕が下りる巻であり、同時にシリーズの完結巻でもあります。
 話はこれまでの流れを踏まえたもので、ドラクロワ、ジーク、そしてノヴィアたちが少年領主レオニスの治める聖地シャイオンに集い、彼の地で繰り広げられる激戦が描かれています。ページ数は「04」などに比べると少なくなってますが、その分密度たっぷりで堪能いたしました。

 ジークが格好良いのとノヴィアの凛とした強さはもう言うまでもないとして。今回は、紆余曲折を経て彼なりの強さを手に入れたレオニスの意志やそれに基づく行動がとにかく格好良かったです。ドラクロワと対峙する場面やノヴィアへの別れの言葉は涙なしでは読めませんでした。一方、彼の従者トールも04に引き続き見せ場も多くて素敵でした。おまけに、アリスハートと何気にらぶらぶだし。まぁこれはあれですね。愛があれば体格の差なんて問題じゃないってことなのですよ!(何を力説してますか) それから、ジークへの最後の刺客・レティーシャと「兄様」は今回大活躍だったわけですが。その目的に関してはそうくるのか、と正直なところ意表をつかれました。それにしても、レオニスへの想いがどういった種類のものだったのか、彼女は気づいていたのでしょうか……自覚してないっぽいよな、やっぱり……。

 やや残念なのはジークとドラクロワの直接対決がほとんどなかったこと。まぁ、彼らの決着は時間軸上で一番最後になる『聖戦魔軍篇』でつけられているわけだから、仕方が無いといえば仕方が無いのですが。ああでも、こうなってくると過去篇の内容を踏まえた完全版『聖戦魔軍篇』を出して欲しいなぁ。

 ともあれ約2年、楽しませていただきました。次回作も楽しみ。ついでに『ばいばい、アース』や『黒い季節』の文庫化も首を長くして待つことにします。

 12/19 『BLACK BLOOD BROTHERS 2 -ブラック・ブラッド・ブラザーズ 特区鳴動-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫] →【bk1

 吸血鬼と人間の共存地帯『特区』を舞台にした吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ第2巻。

 さて今回の話は、大騒動の末に『特区』に足を踏み入れたジロー・コタロー兄弟を中心に『特区』内の各勢力間の駆け引きやらなにやら。ミミコに連れられて『特区』内を観光してる兄弟と一緒に、これからの話の舞台となる『特区』がどういう場所なのかしっかり理解できる丁寧設計になってます。
 そんなこんなで前半はジローたちが馬鹿に襲撃されたりしつつも割合のんびりした展開だったのですが、中盤からじわじわと盛り上がり、後半で『九龍の血統』の暗躍が明らかになるあたりでは一気に緊迫感が増します。ついでにいうと、ミミコがなかなか格好良かったですよ。彼女には今後も負けずに甘いまま頑張ってーと声援を送りたいところ。
 また、登場人物も一気に増加。吸血鬼の大物セイやケイン、どことなく「Dクラ」の甲斐っぽい雰囲気のゼルマン、そして『カンパニー』に所属する陣内などなど、それぞれに味があって良い感じでした。今後、彼らがどういう風に兄弟&ミミコと絡むのか楽しみです。……そういえば、ちらりと姿を見せたカーサ姉さんの本格登場は次巻になるのかな。ジローと因縁浅からぬ様子の彼女も、この先の活躍が(?)楽しみなキャラですね。

 何はともあれ、兄弟は特区に無事居住することができるのかが気になりますが、他にも新しい謎や伏線らしきものも設置されているので、「派手にいく」という次巻以降の展開が今から待ち遠しい限り。

 12/20 『春期限定いちごタルト事件』[米澤穂信/創元推理文庫] →【bk1

小鳩君と小佐内さんは、互恵関係にある高校1年生。今日も今日とて二人は清く慎ましい小市民を目指す。なのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。目立ちたくないのに、何故か謎を解く必要に迫られる小鳩君。果たして彼らは、見事小市民となることができるのか?

 小粒ながらも良質の日常系青春ミステリを発表されている、米澤穂信さんの新作。

 雰囲気的には「古典部」シリーズ寄りの、まったりした気分になれる話。小市民を目指しつつそれぞれ実は……という性癖の持ち主な小鳩君と小佐内さんのキャラと、互いの距離感がなかなか面白く読めました。それにしても、小鳩君のほうはなんとなく素が想像ついたのですが、小佐内さんの場合はそうか、そういう性格だったのか……と最終話で深く納得してしまった感じ。改めて読み直すと、確かにそれらしい伏線やら雰囲気やらもあるけれど、さすがに気がつかなかったです。ついでにいうと、登場人物では健吾君がなんとなくお気に入り。実際身近にいたら鬱陶しく感じることも多々ありそうですが、それはそれとして普通に友達付き合いしたいタイプですな、彼は。

 今回の事件(?)は一応解決したわけで、このまま終わっても綺麗だとは思いますが、彼ら二人がもって生まれた性格を克服して平穏無事な小市民人生を歩めるのかどうかも含めたその後の話も、機会があれば読んでみたいですね。

 12/25 『虚剣』[須賀しのぶ/コバルト文庫] →【bk1

両親と離れて、三河で暮らしていた少年・連也。妹の琴とともに幸せに暮らしていた連也だが、剣の才能を見込まれ、尾張新陰流の宗家である父に呼び戻される。妹との辛い別れを耐え、一心に修行に励んだ彼は、やがて「尾張の麒麟児」と呼ばれるほどの剣豪に成長する。その腕が認められ、藩主義直の息子・光友の指南役として江戸に下ることになった連也だったが、様々な思惑か絡んだその地には、彼の一生を左右する選択が待ち受けていた。

 須賀しのぶさんの新作は少女小説では世にも珍しい柳生モノの剣豪小説(ちなみに一冊完結) 雑誌『Cobalt』の連載に加筆修正しての発売です。

 内容は簡単に言えば、一人の剣の天才が剣の修羅となるまでの話。青春小説としての側面もあり。全体的に手堅くまとまっているし、普通に面白かったです。
 連也の色恋話も多少は絡んできますが、基本的にとてもシリアス&ストイックな仕上がりになっています。派手な盛り上がりこそないものの、抑えた筆致の、静謐な雰囲気の中で語られる物語。剣の道に生きる、生真面目でひたむきな青年が苦悩の末に選ぶ道はどこか虚しさを感じさせつつ、なかなか読ませてくれます。

 ……ところで、「面白かったけれど、これ少女小説じゃないだろう」というのは禁句でしょうかね……。

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