以前コバルト文庫から発売され、「かぜ江」の愛称で好評を得ていた呉(というか周瑜)を中心に据えた朝香版三国志。レーベルを移動して仕切りなおしの模様。
知らない方の為に朝香版三国志を簡単に説明しますと……三国志初期を駆け抜けた英傑・孫策と周瑜の友情を中心に、特に演義系で冷遇されがちな東呉の面々をメインに展開される三国志、というところでしょうか。女性作家さん故か、三国志モノにしては雰囲気が柔らかく(いっそ爽やかですらある・笑)、手に取りやすいと思います。ディープな三国志愛好家には物足りないでしょうが、ぬるいファンな私はそれなりに好き。難を言えば、主役格の周郎が持ち上げられてる煽りで、ちょっとあんまりな描写されてる人(孫権とか)や手柄を取られている人が何人かいるのがね……。じゃあ脇役はあんまり良くないのかといえばそうでもなくて。特に曹操や劉備や孫堅、そして呂布といった面々は描写こそ抑え目ですが、妙に存在感があったり意外と格好良かったりします。(ちなみに三国志における私的好感度は魏=呉>蜀の順。しかも、どちらかというと諸葛亮没後の、末期というか晋に片足突っ込んでる辺りのドロドロ具合が大好きという、いまいち微妙な好みをしていたり……)
さて。今回の話は、「かぜ江」シリーズでは『約束の時へ』のあと。西暦で言えば191年頃の江東が舞台。内容は、対劉表戦と孫堅の死による孫軍瓦解の危機。全体的に雰囲気を伝えるのが上手いと言いましょうか。若者らしく未来に希望を抱いた昂揚感、去っていく相手への複雑な思い、意に染まぬ相手に頭を下げざるをえない葛藤等が、きちんと書かれています。それから登場人物では、荊州組(蔡瑁とカイ越)が結構良い感じだと思いました。本当、敵側の脇役は良い味出してる確率高いんだよなぁ。
単発の読み切り作品として読んでも問題ない形になっていますが、人気が出たら続刊が発売されるのでしょうねー、やはり。それなりに実績があるだろうシリーズだし。個人的には、江陵戦が読みたいのでシリーズ化は歓迎。劉備と孫夫人の話も興味あるし。……つーか、こうなったらいっそ「かぜ江」もビーンズから復刊してくれないものか(コバルトでは既に絶版) いや、一応シリーズほとんど揃えているのですが(子供時代の話は興味ないから持ってないけど)、赤壁編3部作の最終巻をうっかり紛失してしまって。探してるけどなかなか見つからないんですよ(←思いっきり我侭だなおい)
独り言。久々に読む朝香版だったから周郎の脳内イメージ切り替えに一苦労しました。いや、最近は『蒼天航路』と北方版三国志の周郎がデフォルトになってたもので……
『月と闇の戦記』、最終巻。……もう数巻は続くと思っていたのですが、あっさり完結してしまいましたね……
感想。まぁ、割合上手くまとめたほうかな、と。ようやく主役の隆生も活躍の場を与えられたことですし。それでも正直、彼より滋也と楓とペットの兎――もとい、本性を取り戻したツクヨミとカエデ、そしてツユネブリのほうに目が行きがちでしたが。やっぱり、彼らの殺伐としてるんだか心を許してるんだか良く分からない掛け合いが面白くて好きです。
そして、かつての世界を取り戻そうと人類抹殺を目論んだ法印美和の正体に関しては、予想が当たりました。……まぁ、題名や従属神から彼女ぐらいしか該当する神はいませんでしたからちっとも威張れませんけど。それはさておき、前作『月と炎の戦記』でも重要な役割を担った黄泉の女王は、最期こそ少し呆気なかったものの、今回も大活躍(?)でした。やはり彼女は、荒廃した黄泉の姿に嘆き哀しみ憤った結果、俗にいう荒魂の面が強く出てしまっていたのでしょうねー。……あれ。じゃあそんな彼女と対峙したツクヨミたちはもしかして和魂ってことになる? でも、それってあまりにも似合わなさすぎるよなぁ……。やっぱり、ツクヨミたちはどこまでも自分に忠実に動いたということで納得しておくのが、精神衛生上良いですね。うん(←自己完結)
神も幽霊も人間も、舞台となったアパートを去って物語の幕は下りたわけですが、これでツクヨミたちの話も終わりと思うと少し寂しいかも。個人的には、もう一エピソードぐらい神代に舞台を戻した話が展開されてもいいかもなぁ、なんて思ったり。だって、アマテラスもスサノオも結局名前しか出てなくて、ちょっと勿体無いと思いませんか……って、そんな手前勝手な希望はさておいて。この作品もこれで一段落したことだし、星界の続編もそろそろ発売して欲しいところですね。やはり。
王の死後、その隠し子という姫君をそれぞれ擁する七つの都市が並び立つ地。七番目の姫として擁立された少女・空澄(カラスミ)の視点で、移りゆく時間や世界を描いた作品。約1年ぶりの続編です。
今回の物語は前作の少しあと。一人の姫が放逐され、七姫が六姫になったところからはじまります。とはいえ、今回はそれほど大きな騒乱はなく。身分を隠して市井に下りたカラスミが、町で色々な人と知り合い見聞きするなかで様々なことを知っていくというもの。
相変わらず、この作品独特の空気が奇妙に馴染むとでも言いましょうか。とにかく良い感じでした。終月(しまいづき)から始まって、命月(みことづき)、雪終(ゆきおわり)、息吹月(いぶきづき)まで。カラスミが過ごした一冬は、見せ掛けだけでも比較的平和で穏やかな時間でした。春に季節が移ればまた次の騒乱が待っているだろうからこそ、この穏やかな時間は、とても貴重で愛しむべきものなのでしょうね。
それから、表紙を含めたカラーイラストが作品の雰囲気とぴったりで、また良い感じ。個人的には、口絵1枚目(雪の中に立つ空澄姫)と空澄以外の六姫が描かれた見開きが特に好きですね。
知りたがりな幼い姫は、自身を担ぎだした二人の共犯者たちと何処まで行けるのか、今後の展開が気になるところ。いずれにしろ、「永年(ずっと)、優しく大人になろう。誰と出会おうと、誰と語ろうと、揺れる移ろいに足元を見失わずに。」(p.273) という、少女の決意が違わず果たされることを心から願います。
新人さんの作品ですが、デビュー作にも関わらず400ページを超える大作。しかも続き物……って、これは電撃ではよくあることか(笑) 内容は簡単にまとめるとファンタジー風戦記。銀英伝やロードス島戦記など好きな人なら、割と好みに合いやすいかも。
一人の天才の存在によって圧倒的に劣勢だった戦局が覆っていく、王道といえば王道な展開。しかしながら、≪冥海≫を舞台に繰り広げられる≪海獣≫を用いた戦争はややイメージしづらいものの面白そうだとは感じました(個人的イメージとしては『星界の紋章』とかが近い……ような気がしなくもなし)
登場人物は、戦記物の宿命かやや多め。一応、主人公的位置にいる戦の天才で破天荒なジュラは、現在でこそ異母兄ラシードをはじめとする理解者に恵まれているものの、かなりの辛酸を舐めてきた人物で――と、冷静に見れば結構パターンな人物造型と言えなくもない。ですが、記憶を失った謎の少女・ノウラへの態度や、はっきり言って下品というか馬鹿だろあんた、とツッコミいれたくなる日頃の言動の描写等はなんとなく目新しいような気もしたり。今のところはとりあえず、なんだかよくわからないヤツだなぁ、って感じですかね。
ちょっと不満だったのは、ノウラの扱いでしょうか。なにやらいわくありげな少女なのですが、その正体に関するヒントなどが一切なし。続刊が出れば徐々に明かされていくのだろうとはおもうのですが……さてさて。
まぁ、なんだかんだ言っても総合的には悪くはないというか普通に面白い、という印象。今後彼らがどうなるかも気になるし、続刊にも期待したいところです。
「Dクラッカーズ」最終章、遂に完結。
読了後にまず思ったのは、「綺麗に幕が下ろされたな」という一言でした。前巻のあとがきで宣言されていたとおり、「因縁の再会」と「宿命の対決」、そして「諸々の決着」の全てが欠けるところなく盛り込まれていて満足。どの場面も緊張に息を詰めつつも、時折ニヤリとしたり思わず目が潤んだり。一気に読み終えてしまいました。
以下、登場人物に比重を置いた感想をつらつらと。
まずは梓と景、そして女王。彼らの決着は割とストレートといっていいものでした。しかしまぁ、梓と景のこれまで離れ離れになっていた分も取り返そうとするかのようなラブラブ(いや、むしろ梓のかかぁ天下宣言か・笑)には思わずニヤニヤしてしまいました。ヒロインがあそこまで傍若無人でいいのでしょうか(笑) 一方、甲斐と茜の結末はちょっと吃驚したけれど、らしいといえばらしいかも。カプセルとオーナーが消滅した以上、甲斐の精神的不満あるいは欠乏、飢餓、虚無といった面を補完するには彼女が素直にパートナーとなるよりあの進路が適しているでしょうし。あの二人なら追いつ追われつ、新しい関係を築いてくれるでしょう。多分。カップル話の最後は、水原と千絵ちゃん。正直彼らは、まだ今後どう転ぶのか分かりませんが(勿論、お互いに好意は持ってるんだろうけど)、結構良い組合わせだと思います。進展すればいいんだけれどなぁ。そのほうが幸せな気分になれるし。私が(←思いっきり我侭だし)
それから、7-1では大人しかった3Bの面々は、各々の持ち味をしっかり出してくれました。特に、ベリアルVS甲斐のリターンマッチ(舌戦含む)とベルゼブブVS千絵の論戦は楽しかったし見ごたえもあったと思います。ベルゼブブこと水原(兄)に関しては、ずっと疑問だった自殺理由の解明や見たかった水原(弟)との対面が実現されて満足しました。ベリアルがかつて昏睡状態に陥っていた理由も、きっちり説明してくれましたし。今回で彼らに関する疑問の大部分は解消されましたね。そんな彼らが迎えた最後。最後の最後まで、あくまでらしい感じが良かったです。バールの決意は、いつの日か果たされるのでしょうか。彼が正気を取り戻して現実に還るのなら、恐らく彼の目覚めを待っているのだろう女性とともに、今後どのような人生を歩むのか。素直に応援を……したいようなしたくないような複雑な心境。だって、その過程で万が一にも第2の女王が召喚されたら、また大事件になるし(笑) ……ところで、黒鮫に怯えて隠れるベルぱーがちょっと可愛いかもとか思った私の感性は、やっぱり何か間違ってるでしょうか。
ともあれ、ここまで見事に一つの物語を紡ぎだしてくれたあざの氏に乾杯という心境。ショートを含めて全部で10巻、本当にお疲れ様でした。勿論、次回作も楽しみにしています。
異世界ファンタジーの名手といったイメージが強い円山氏、久しぶりの新作は現代日本を舞台にした一風変わった退魔モノ。
浄霊の手法こそ珍しいものの、作品全体の感想を一言であらわせば、正統派の良作となるでしょうか。修身をはじめとする若者たちの葛藤と成長がきっちり描かれています。個人的には、女の子特有の裏表やイジメ描写は結構上手だと思った。なんというか、「あー、そういう気持ちってなんとなく分かるなぁ」みたいな感じで。もっとも、現実は数倍陰湿だと思うけど……いや、一般論ですよ?
まぁそんなこんなで普通に面白いと思いましたが、電撃文庫的な面白さではないかも、とちょっと思ったり。なんというか、何故か往年のコバルト文庫を思い出すような、少女小説的な面白さだったような気がするんですよね。
1話完結でも問題がない幕引きとなっています。けれども、謎のままに終わった設定も多々あったり、今後の彼らの進路も気になったりしますので、続刊があるならそれはそれで楽しみです。
第3回富士見ヤングミステリー大賞受賞作。投資のつもりで購入してみました。
舞台が大正時代ということで、雰囲気を演出するためにか少し独特な文体が使用されています。例えるなら、噺家さんの喋りに近いものがあるかな? まぁそんな感じの文章なのですが、なかなか良い味出してたと思います。好き嫌いはあるだろうけれど。個人的には、時折混じるカタカナはちょっと読みにくいなぁ、とか思ったり。
ミステリ部分は、正直物足りなかったです。もっとも、時代を考えるとあまり凝ったトリックは使えないかもしれませんが。でも、それならそれで演出面を工夫するとか色々と見せ方はあったんじゃないかと、そう思うとやっぱり少し残念。この辺は次作以降に期待というところ。
登場人物について。骸惚先生が思ったより真っ当な人で逆に吃驚してしまいました。なんか勝手に京極堂っぽい人を想像していたので……。まだ大正時代、男尊女卑の風潮が世の主流であるにも関わらず、男一人に女三人の家庭で肩身の狭い思いをしてそうな先生の姿にちょっと笑ってしまいました。いや、言うほど酷くないですけど。例えるなら『関白宣言』と『関白失脚』の中間からやや下ぐらい(…微妙な…) そうそう、骸惚先生の探偵小説に対する持論にはつい納得してしまったり。一方、押しかけ弟子の太一君はといいますと。エリートであることを鼻にかけることもなく必要なら台所に立つことも平気と、この時代の人間としては型破りなお調子者。彼の犯罪者に対する考えなどは、好感が持てました。その他、骸骨先生の奥方・澄さんや長女の涼、次女の發子(本当はハツの字は「サンズイ」がついている)、女性編集者・香月緋音など、女性陣もそれぞれ良い感じ。しかし、メインヒロインの涼はなんとも気の強いお嬢さんで。「もう噂は聞きましたかー♪」のメロディが頭の中を駆け巡ったのは私だけじゃないと思いたい。
全体としては手堅く纏まっているし、まぁ悪くはないんじゃないかと。富士ミスの中では比較的真面目にミステリしてる部類ですしね。シリーズ化されるにしろ全くの新作になるにしろ、次回作にもそれなりに期待できそうかな。
ハヤカワより復刊中の「クレギオン」シリーズ、第2巻。
ヴェイスの騒動の結果、押しかけ就職してきたメイが加わり、総勢3名となったミリガン運送。今回彼らが遭遇したトラブル(?)は、フェイダーリンク恒星化計画。これを食い止めるために、惑星上に生物が存在するという証拠をでっち上げようとするのですが、思いがけない展開に……まぁ、これは読んでからのお楽しみですね。
前回のヴェイスも勿論そうでしたが、今回の話では例えばフェイダーリンクのコロニーで暮らす人々の無重力状態に適応した生活など、異邦人であるが故に読者の視点に近いミリガン運送の面々を通してすんなり理解できるようになっていて、上手いと思います。また、コロニーの住民たちが立ち退き出来ない理由にしても、計画を進める側の言い分にしても、「そうか、そういう事情なら理解できるな」と思えますし。この作品は、「もしかしたら将来あるかもしれない」と思わせるようなリアルさ、地に足のついた身近な雰囲気がいいですね。
世界に破滅をもたらす『災禍の心臓』を移植された少年と、彼を守る『第五の騎士』となった少女と少女の親友3人の、辛く苦しい戦いを描いた「カラミティナイト」シリーズ。約2年4ヶ月ぶりの新刊発売です。
今回は時折ぐさっとくる描写はあるものの割とほのぼの……というか、ちょっと笑えたりできるような展開でした。例えば、事情がわかっていない美由紀を守るため、智美が取った方法とそこから引き起こされた美由紀との会話とか。心理描写が上手な作家さんなので、乙女思考炸裂中な場面でもさほど違和感を感じず読むことが出来ます。ついでに、美由紀の同級生・御堂凛と真島光太郎、智美たちのクラスメイト真島恭子(ついでに彼女は光太郎の妹)といった面々、それぞれの描写もなかなか個性豊かだったし。好感を持つかどうかは別として。
あと、黒騎士の外見に勘違いが進行しまくる『慟哭の三十人衆』に思わず大笑い。つーか、これまでも「こいつら個人個人の能力は物凄くても、組織としては貧弱極まりないよな」と思っていたけれど、その実情たるや想像以上で。狂気に侵されかなりえげつないことをしている連中ですが、それでも思わず同情してしまいましたね(笑) 最後に、トリックスターというか現状ラスボス候補最上位の雪村先生は今回は比較的大人しく、ストーカー行為に勤しんでおられました(←それは大人しいと言えるのか?) とりあえず、この人がどうやら本当に『第四の騎士』古都子さんの恋人だったらしいことに安堵したり。これも脳内妄想だったら、本当に洒落にならない程ヤバイ人ですものね。とはいえ名前は明かされてないから、「やっぱり別人でした」なんてオチがつく可能性も0ではないわけですが。……間違ってもそんな展開にならないことを祈ります(震)
……えーと。そんなこんなで和やか(?)だった展開が一気にひっくり返る終盤。智美と優子の些細なすれ違い、日常を取り戻すため決意を固めた智美の行動、そのあと再会した二人の会話など、どれも重い。彼女たちの戦いができるだけ早い時期に報われますように。それから気になるのは、最後の美由紀の決意。これが吉と出るか凶と出るか、気になるところです。
追記。1巻で閉鎖された智美のサイトと創作小説は、こうきましたかって感じでしたね。でも、あれをやってる側は一体何が面白いのかいまいち分からないや……。
追記その2。今回も、やっぱり忍の影は薄いですね。うーむ、不憫な人だ(笑)
「エンジェル・ハウリング」シリーズ7巻目。書き下ろしのミズーサイド。
負傷したジュディアを残し、双子の姉アストラを取り戻すために帝都へと向かったミズー。この地で彼女が目にした光景とは――と、内容はそんな感じ。これまでの話で、ジュディアをはじめとする多くの人と交流を持ったミズーの内面の変化が、台詞や心理描写の端々から感じられます。当初は刺々しいというかいまいち微妙なキャラだった彼女ですが、なんと言いますか随分丸く(?)なったなぁとしみじみ。
印象に残った場面は、一つの叫びから幕を開けた帝都の崩壊。そして、「殺人精霊」との邂逅から始まった一連の場面。あれには、思わず背筋がぞくりとしてしまいましたね。あとは、彼のあまりにも呆気ない死。彼らしい、と言ってもいい気もしますが……どう言えばいいのか、物凄く微妙な心境ですね。間違っても好きなキャラじゃあなかったしなぁ……好感度でいえば、ウルペンのほうがよっぽど高いぐらいだし。
これまでは何がなんだか分からないまま読み進めていたこのシリーズですが、ようやくある程度物語の姿が見えて(いや、あくまで私的認識ですが)、気分が盛り上がってきたような気がします。残すところ1エピソードとなったミズーの物語がどのような結末を迎えるのか。また、帝都崩壊の時にフリウは何をしていたのか。うーん、素直に続刊が楽しみになってきました。
第15回ファンタジア長編小説大賞の最終選考に残った作品とのこと。題名に興味を引かれて購入、したのですが。某オンライン書店で注文したため、開封後に帯の文字を見た瞬間、私は何でこの作品を買ったんだろうなぁ、と物凄く悩んでしまった人間がここに一人。
そして読了後、まず思ったのはただ一つ。「帯の売り文句を考えた責任者、出てこい」ですね。内容と全くあってないとまでは言いませんが……正直、引くと思うし。あれは。
一言でいうと、割と良い感じのファンタジー作品。特に勢いがあるとか予想もつかない展開などはありませんが、全体的に雰囲気が優しいとでもいいましょうか。場面によってはちょっとしんみりした気分になったりもして。また、ラストを綺麗にまとめたのも好印象。
ディオンとオルフィナ、二人の物語は綺麗に幕を下ろしているので、下手に続編は出して欲しくないですね。全く新しい物語か、同じ世界を使うにしても、また別の時代や人に焦点を当てた作品が読んでみたいかな。
第15回ファンタジア長編小説大賞の努力賞受賞作品らしいです。試しに購入してみました。
『戦略拠点32098 楽園』富士見Ver.って感じ。でも、『楽園』よりも色々詰め込んであったり主人公が色々動き回ったりするため、個人的には売りにしているらしい「牧歌的」な雰囲気をあまり味わえなかったかなぁ。
それから、内容はまぁ悪くはないと思いますが、説明台詞が少し多かったように思います。特に後半、設定を台詞で説明しまくるのはちょっとどうかな、と思ったり。
その他、キャラクターの動かし方やら展開やらに多少ぎこちなさを感じたりもしましたが、この辺りは今後の成長に期待というところかと。
古代中国をモデルにした架空世界で繰り広げられた戦国志、いよいよ最終巻。
未だ優勢を保つ<衛>の虚をつき、<衛>領に攻め込んだ<琅>の軍勢。最後の覇者となるべく対峙する二国の決戦の行方は……と、まさにクライマックスを迎えます。
傭兵の身分からついに<琅>王となった羅旋、彼を支える謀士として成長を遂げた淑夜、<琅>軍に合流しその才能を将として発揮する大牙。3人の8年に及んだ戦いの結末は、何処までも広がる空の下、淑夜の優しい願いと穏やかな場面で幕を下ろしました。彼らの行く末に、幸運があることを祈りたいです。
それから、無影と連姫。お互いあまりに不器用で意地っ張りで、それ故にすれ違いつづけた、哀しい二人でした。遂に相手に伝えられなかった謝罪と告白と、どこか遠慮がちに、しかし精一杯寄り添ったのだろう無影の最期の描写が切なかった。
巻末に収録されている外伝「雪花譜」は、淑夜と無影がまだ無冠で、何のわだかまりもなく笑いあっていた頃のエピソード。古い写真や日記を目にしたような、なんとなくそんな気持ちになりました。彼らのその後を知っているだけに、少しばかり寂寥感を感じたりも……。
全8巻文庫化終了。再読でしたが、十分楽しませていただきました。現在取り組んでおられる新作(多分、普通の歴史小説でしょうが)も楽しみですね。
アイルランド独立運動初期を下敷きにした、架空世界の歴史物語。この巻で完結。
先日読了した『五王戦国志8』のあとがきで、井上さんが『五王』を書く上で念頭に置いていたことを3つ記しておられました。そのうちの一つが、「史実は参考にするが、それにとらわれすぎないこと」だったそうです。一方、花田氏の『黎明の双星』は、結局最後まで史実から逃れられなかったんだなぁ、とそういう思いで読了しました。せっかく架空世界を舞台にしているのだから、もっと大胆に人を動かして、エピソードを加工したり削除したり、それからでっちあげちゃっても良かったのに。現実を舞台にした歴史小説じゃないんだから。
とりあえず、シャムロック独立運動の黎明期を担った人々は退場し、この物語は幕を降ろした訳ですが。続編が出るのならば、次はもうちょっと物語の演出を工夫しないと拙いような気がしなくもなし。概要しか知らないからあまり偉そうに言えないけれど、それでもざっと見る限り大枠の展開がアイルランド史そのまますぎる。
ところで、てっきり主役二人のモデルはマイケル・コリンズだと思っていたのですが、違ったみたいです。特定のモデルがいるのかどうかまでは分かりませんが、主役二人は実際の歴史ではイースター蜂起(作中では「聖女祭蜂起」)に当たる反乱の指導者層として位置づけられていた様子。そういえば確かに、よく見れば年代もイースター蜂起の頃と一致しますしね。で、コリンズ的役割を担うのは今作の主役、リィーンとダグラスの後継者の一人みたいで。……もしそうなら、もう一人はデ・ヴァレラ的役割になるんですかねぇ。やっぱり。
中世英国を舞台にした「足のない獅子」シリーズなどで好評を得ておられる作者氏、初のノベルス作品は架空世界の傭兵の物語。全3巻予定だそうです。
主役二人の話。シャリースは陽気なだけではなく、歴戦の戦士らしく要所要所できっちり魅せてくれますし、ヴァルベイドは行動自体はそうではなくても纏っている雰囲気が渋いとでも言いましょうか、落ち着いた格好良さが素敵。また、二人とも年齢が比較的高い(シャリースは30代、ヴァルベイドは40代)ため、若年層が主役のライトノベルでは多少無理を感じることもある性格・設定など、ちゃんと納得できるのが良い感じ。
物語自体はまだ序盤で謎も多いですが、1巻を読むかぎりでは2巻以降にも期待できそう。また、隊長に負けず劣らずの個性の持ち主が揃っているだろうと期待している、バンダルとも早く合流して欲しいところです。
追記。今回は、「なんでこういう場面で以下続刊に……!」という終わり方をしていますので、その点を覚悟して読まれるほうがよろしいかと。嗚呼、2巻の発売はいつ頃になるんだろう……