■ 2003.12月読書記録

 12/1 『クレギオン1 ヴェイスの盲点』[野尻抱介/ハヤカワ文庫JA]

社長のロイドと女性パイロットのマージが二人で切り盛りしている宇宙の零細企業、ミリガン運送。かなりガタのきていた愛機アルフェッカ号の修理費用を稼ぐため、彼らは惑星ヴェイスへ向かうことに。しかし、ヴェイスの軌道上は『大戦』の負の遺産である機雷原に覆われている。機雷を突破するために不可欠なナビゲーターを急遽雇い入れたのだが、ナビゲーターの少女メイは実はこれが初仕事で――

 以前、富士見ファンタジア文庫で発売されていたSFシリーズ、レーベルを移動しての復刊です。

 物語中には派手なドンパチはほとんどなく、偶然惑星ヴェイスに立ち寄ることになった二人がトラブル……というか、事態の収拾のため報酬のために機雷原の突破やサルベージ作業などに取り組むことになるというもの。「英雄不在のスペースオペラ」がコンセプトというこの作品、それぞれ欠点もある等身大の登場人物が一生懸命行動する姿は、読んでいてとても気持ちがいいです。

 さて。ヴェイスを旅立ったアルフェッカ号が、次に遭遇するトラブルは……2ヵ月後のお楽しみということで。

 12/3 『天空<そら>の刻印 (上)』[朝香祥/小学館パレット文庫]

北の草原に点在する遊牧民の国の一つ、カブラン。ある時、南の大国タスタリアから傘下に入ることと朝貢の要求が届くが、誇り高いカブランはこれを拒否する。しかし、その後の隣国との戦いで、カブランはタスタリアの策謀により大敗し、首脳陣に動揺が走る。そんな中、カブラン首長(カアン)の養子として育てられた少年レンは、味方の士気をあげるために伝説の聖獣を探し出そうとするのだが――

 三国志や古代日本、そして架空世界の沙漠等の歴史を扱った作品を多く書かれている朝香祥さんの新作。今回は、草原の遊牧民族国家を舞台にした物語。

 同じ架空世界を舞台にした作品でも、『キターブ』よりファンタジー色がやや強め。とはいえ、そういう要素に偏りすぎることなく、外交上の駆け引きや戦況なども、読んでいて雰囲気が伝わるように書かれています。この辺はまぁさすがというべきか。

 登場人物では快活で無鉄砲で思い込んだら一直線なレンや、複雑な生い立ちからなかなか自分の内心を表に出せないカアンの長男エルクの二人を中心に、何らかの目的で聖獣の伝説を辿る旅の賢者シュ・ルム、それぞれ秀でたところがあるカアンの次男イシュハと三男ジャウル、カブラン併呑を目論む策謀家のタスタリア王女アスリエル等、割と好みな人物が一杯でちょっと幸せ。彼らが聖獣出現という事実に、どのような影響を受け、どのようなことを選択して行くのか気になるところ。個人的には、下巻でアスリエル殿下の出番が増えてくれれば嬉しいなぁ。イシュハとジャウルも、もっと活躍してくれれば更に嬉しい。

 上下巻で、下巻は2月発売らしいです。今回はそれほど極悪非道なところでエンディングになっていないので、続編をのんびり待てますね(笑) しかしこれ、あと1冊で決着つくのかやや疑問だったりしなくもない……

 12/7 『バウワウ! Two Dog Night』[成田良悟/電撃文庫]

佐渡と新潟の間に架けられた世界で一番巨大な橋。その中央には、不況によって放置され、名前がつけられる事もなかった人工島が存在した。不法滞在者やチンピラが住む、九龍城さながらの無法都市と化したその島を訪れたのは二人の男。一人は気弱で大人しく、もう一人は危険な匂いをまき散らす。社会から隔絶された無法都市で全く違う道を歩む二人の姿は、鏡に映る己を吠える犬のようでもあった。

 「バッカーノ!」シリーズでお馴染み成田氏の新作。適当な例が思いつかないけれど、今作も映画的な作品に仕上がっています。
 ただ、雰囲気的にはやや重めなほうなので、「バッカーノ!」のノリを期待していたら十中八九裏切られるのではないかと。私はこういうのも好きなのでOKでしたが。つーか、話の方向性は違えど成田氏らしい作品だったと思います。

 序盤やや説明的な部分が多くて、少しテンポが悪いように思ったりもしましたが、話が転がりだすとやっぱり面白かったという感じ。クライマックスのバトルもしっかり盛り上がったし。個人的には、葛原乱入がイラストの効果もあって最高でした。

 しかし、余章はどうだろう。ああいうちょっと救いがあるような突き放したような奇妙な感じは嫌いではないけれど、終章のシメでかなり満足したものだからちょっと蛇足なようにも思えたり。まぁ、それこそ「映画みたいにいくか!」という戌井の声が聞こえてくるような気がしますけど。

 この作品もシリーズ化の可能性があるみたいですが、その時はどんな展開になるのか楽しみ。どうなるにしろ、私的には戌井に是非再登場してもらいたいところです。いや、あのキャラが割と好きなので。

 独り言。p.82のラジオドラマって……いいのか、あれは。作者同士仲良いみたいだからいいのか……

 12/8 『空ノ鐘の響く惑星(ほし)で』[渡瀬草一郎/電撃文庫]

毎年ある季節になると、空から鐘に似た音が降ってくる世界。『御柱(ピラー)』と呼ばれる宙に浮く巨大な柱がある世界。そんな世界に生じた「深夜をまわる頃、『御柱』の一部に若い女の姿が浮く」という噂話。事実を確かめに行った少年フェリオの前に現われたのは、御柱の中に浮かぶ異装の少女の姿だった。

 『陰陽ノ京』『パラサイトムーン』で人気を博している渡瀬氏の新シリーズ。今回はちょっとSF要素もありそうだけれど基本は割と順当な異世界ファンタジーというところかな?

 これまでのシリーズ1巻目と違い、この巻だけで完結していません。そして、まだ起承転結の起の部分なので、この世界の説明や登場人物達の顔見せ的な部分が多かったように思えますが、まぁそれはそれとして普通に面白かったです。この方は基本的にスロースターターだと認識しているので、きっと次巻以降どんどん話が盛り上がってくるだろうと勝手に期待。

 登場人物の話。主人公のフェリオは性根が真っ直ぐで、今のところ正統派主人公って感じ。そんな彼と絡むヒロインは、『御柱』を通って違う世界から渡ってきた少女。健気系でありますが、なにやら謎が多そうで。また、フェリオの幼馴染で神官のウルクも今後どういう動きを見せてくれるのか期待(……よく考えたらこの人の作品って絶対幼馴染が登場するよな……) その他、フェリオの剣の師匠ウィスタル率いる王宮騎士団や何気に性格破綻者揃いの神殿騎士団、大きな影響力をフォルナム神殿関係者等の人間関係がどうなっていくのかも気になるところです。

 2巻は来年初旬(2月だっけ?)予定とのことなので、楽しみに待つことにします。

 12/10 『Dクラッカーズ7-1 王国-The limited world-』[あざの耕平/富士見ミステリー文庫]

 「Dクラッカーズ」本編、いよいよ最終章に突入。今回は分冊で2ヶ月連続刊行とのことです。

 前回ラストで全てに決着をつけるため『王国』に独り向かった景。残された梓たちも、できることをしようと決意していたものの、やはり現実は厳しく……。エピソード前半、唯一記憶を失っていない千絵ちゃんと他の皆が言い争うシーンは、千絵ちゃんの心情が痛いほど理解できて本当に切なくなってしまった。更に、景も『王国』の要、魔法使いとして取り込まれてしまい……この絶望的な状況、何とかなるのだろうかと心底不安になりましたね。

 梓や水原、茜にビーグル。皆が皆、想いの伴なわない色褪せた記憶をもどかしく思いつつも、具体的な打開策を探る情熱が生まれてこない。只、時折訪れる記憶のフラッシュバックに苦しんだり戸惑ったりするばかり。そんな八方塞の状況を打ち破ってくれたのはやはり千絵ちゃん。あああ、本当に本当に、シリーズ開幕当初邪魔者扱いしてごめんなさいーと泣いて謝りたくなった今日この頃。今回も彼女は、これまでで一番の苦境にも負けずに頑張ってくれました。彼女がいて本当によかった(涙) そんな彼女の行動が次へ次へと連鎖を起こし、少しずつ反撃が開始され、その波は遂に『王国』にまで届き――あの扉が開いたシーンとその後の彼らの行動にはついニヤリ。そうそう、これでこそ彼らだ。そして、帰還した「犬」にもまたニヤリ。次巻で思う存分暴れてくれるものと期待しています。

 一度はバラバラになった仲間たちが徐々に集まり、魔法使いも「物部景」としての自分を取り戻しだして。そして、彼らは最後の戦いに挑みます。囚われた友を連れ戻すために。大事な人たちが待っている場所に還るために。皆との約束を果たすために――。こうして書くとベタと思うかもしれないけれど、そんなのどうでもよくなるぐらい燃える展開ですよ。本当。悔しくて涙が浮かんで、嬉しくて思わず笑って。そして、ふと気がつくと「頑張れ、皆!」と真剣に応援している自分がいるんですよね。

 次巻で待ち構えている「因縁の再会」と「宿命の対決」、そして「諸々の決着」。どれもが今から待ち遠しい限りです……つーかなんで2冊同時刊行してくれなかったんだこんちくしょーっ!(八つ当たり)

 追記。今回はベルぱーの語りが少なくて、ちょっと残念。代わりに千絵ちゃんがいろいろ語ってくれてたけれど、やっぱり何というか言葉のベクトル?が違うような気がするからなぁ……。

 12/11 『マルタ・サギーは探偵ですか?』[野梨原花南/富士見ミステリー文庫]

極度の面倒くさがり少年鷺井丸太は、「登下校が面倒だから」という理由で退学届を出した日、偶々見つけた奇妙なコンビニに入ってみる。そのコンビニで引いた籤が大当たりで、後ろに並んでいたこれまた奇妙な青年に声をかけられることに。半ば以上嵌められた形で奇妙なゲームに参加することになり、さらに異世界の都市オスタスに飛ばされてしまった丸太。とりあえずオスタスで生活していくために、鷺井丸太改めマルタ・サギーが選んだ仕事は「名探偵」だった。

 コバルト文庫で「ちょー」シリーズなどを書いておられる作家さん。思わず「こっち聞くなよ」と呟いてしまいそうないい加減な題名に、ついなんとなく手が伸びて購入。

 前半は、丸太が「カード戦争」という謎のゲームに済し崩しに参加する羽目になり、その説明が展開されます。じゃあそういう路線で話が進むのかと思ったら、丸太はアクシデントで異世界の都市(イメージは近代ロンドン)に飛ばされてしまい。元の世界に帰るにはどうすればいいのか全く分からないから、とりあえず生活費を稼ぐために自分にできること――カードが「名探偵」なので「名探偵」マルタ・サギーとして生計を立てていくことを決める、という展開に。

 で。マルタの持つカードの能力は「事件を強制的に解決させる」という、ひょっとしなくても反則なシロモノ。どういうふうに作用するんだろうとちょっとワクワクしていたのですが……うーん、正直期待外れだったかも。いや、「あなたを、犯人です」並に強引なものなのかと思っていたので割と真っ当(?)な能力に拍子抜けしてしまったというだけなのですが。

 まぁとりあえず、今回は設定紹介&キャラの顔見せ編という感じなので、次巻以降どのような話になるのか、適当に期待です。

 12/13 『がらくたのフロンティア』[師走トオル/富士見ミステリー文庫]

59年以上前の記録をもたない人類。大地は荒廃し、人類に代わって巨大動物が闊歩する世界が成立していた。そんな世界で、人類の領土を奪還するべく行動する組織『解放軍(リプレイション・アーミー)』の第九戦闘隊――通称ジルベルト隊に所属するアヴィンは、『異形の敵(バリアント・エネミー)』に襲われた村でただ一人の生き残った少女・クーナを保護する。アヴィンの心配と不思議な能力を持つ少女を乗せて戦車は基地へと向かう。そこでクーナを待っていたのは、人類最大の謎『深遠なる忘却(ディープ・オプリビオン)』を研究する『ユグドラシル』であった。

 富士見ミステリー文庫のラインナップではかなり貴重な、割とちゃんとミステリしている作品「タクティカル・ジャッジメント」シリーズの師走トオルさんの新作。どんな話かな、と購入しましたが……うん、普通にファンタジーでした。ここまで普通にファンタジーだといっそ清々しいぐらいに。つーかある意味、これでこそ富士ミスかもと妙に納得してしまう自分ってちょっとどうなんだろうと思った今日この頃(笑)

 それはさておき、内容の感想は……うーん、普通に面白い、というところでしょうか。今のところ、そんなに目を引くような設定も無いし、キャラも割とよくある感じですし。それに、「タクジャ」と比べてあまり書き込まれていないように思えたりもしました。例えば、今回の話の軸にもなっているアヴィンのクーナに対する気持ちはもっとしっかり描写して欲しいし、他にもそういう思うところがちらほらと。

 まぁとりあえず、今後の展開がどうなるかはそこそこ気になりますし、普通に期待しておきます。

 12/17 『スター・ダックス』[草上仁/ソノラマノベルス]

師匠の裏切りで指名手配の身となった詐欺師のショウ。そんな彼が、逃げ込んだ辺境惑星で「勅許特級犯士」――すなわち国家が認める職業犯罪者にスカウトされる。半ば以上退路を断たれてしまったショウはスカウトを受け入れ、同時に一仕事仰せつかる。さらに、その仕事で他の「勅許特級犯士」たちとチームを組むことになるのだが、選ばれたメンバーはそれぞれ問題有りな連中。果たして、ショウはこの犯罪ドリームチームを上手くまとめ、仕事を成功させられるのだろうか。

 以前、『よろずお直し業』(徳間デュアル文庫)を読んで以来、チェックするようになった作者氏の新作。

 しばらく前にソノラマ文庫から刊行されていた「スター・ハンドラー」シリーズに比べると、ギャグの比率が下がっているかな。ならばシリアスな作品なのか、といえば全くそんなことはなくて……何と言いますか、対象年齢がやや上昇したコメディ劇とでも言いましょうか。そんなノリの話。

 感想としては、面白かったです。犯罪者としての腕は良いけどプライドも高く、おまけにクセモノ揃いの「ドリームチーム」(急造)のリーダーに任命された詐欺師のショウが、多種多様な策略を駆使してターゲットの財産を狙うというのが話の根幹。相手を罠に嵌めるためかなり悪辣なこともやっている筈なのに、不思議とそういう印象は残らない。これはやはり、ショウの性格の賜物なのでしょうね……なんて得なヤツ(ちなみに彼は「オネスト(正直者)」なんて笑うしかない二つ名の持ち主だったりする) それから、ショウとチームを組む老スリ師のテイラー・サム、紅一点で篭絡の達人ヴァイ、ファンシーグッズが好きな「学位のあるゴリラ(By.ショウ)」ザカール、凄腕ハッカーのゾークらがそれぞれ担当する仕事やメンバー同士の掛け合いも楽しめました。

 また、そんな彼らと相対するのはターゲットだけではありません。依頼者の側でありながら何か企んでいるエージェントやショウを追う捜査官、おまけにショウの師匠まで首を突っ込んできます。誰もが「最後に笑うのは自分だ」と策を弄して行動してくれるおかげで、次は誰がどう出るのか、諸々の要素がショウの計画にどんな影響を与えるのかと、最後までハラハラしながら読むことが出来ました。

 とりあえずこの1冊で完結していますが、続編があってもおかしくないエンディング。個人的には、次の「仕事」も是非読んでみたいですね。

 12/19 『GOSICK -ゴシック-』[桜庭一樹/富士見ミステリー文庫]

西欧の小国ソヴュールに留学した少年・久城一弥。彼の通う聖マルグリット学園の図書館塔の最上階には、緑に覆われた部屋がある。その部屋の主で貴族の少女・ヴィクトリカは、パイプを燻らせながら自らの退屈を満たしてくれるような謎(彼女に言わせれば世界の混沌)を待っている。ひょんなことから知り合った二人は、共に数々の難事件に挑戦していくことになる。

 2ヶ月の充電期間を経て発売された今月の富士見ミステリー文庫(個人的には何か間違った方向に加速してる気がしないでもないのですが……まいじゃー様経由で知った例の話は笑うしかなかったし……) ともあれかなり不思議なラインナップの中、なんとなく購入したこの作品は比較的ミステリしてたというかしようとしていた作品でした。

 ミステリの分類としては、安楽椅子探偵モノです(推理するのはヴィクトリカ。一弥は助手兼護衛というところか) 事件の展開やらなにやら強引な部分も多々あるけれど、体裁はそれなりに整えてあるし、レーベルを考えればまぁ目を瞑れなくないかなーとか考えてる私は甘いでしょうか。それにしても惜しいと思うのは、最初に被害者の大部分をあっさりまとめて殺しすぎってこと。もっと丁寧に徐々に人数を減らしていって、生存者同士の疑心暗鬼を煽るとかしてくれれば良かったのに。ついでに犯人も分かり易いしなぁ……。この辺に関しては、今後の精進に期待。

 あと、新生富士ミスのテーマらしい「LOVE」(…ノーコメント…) これは勿論、しっかり盛り込まれています。ヴィクトリカと一弥が、お互いに相手を信頼して大事に想っているのがよく分かりますし。彼らの出会いがどんなだったのかも、読んでみたいですね。

 12/22 『カオス レギオン02 -魔天行進篇-』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫]

 かつての友を追う騎士とその従者の道程を描く「カオス レギオン」シリーズ、4冊目。段々分厚くなっていってるのがなんだか笑えます。

 今回は、故郷を秘儀によって破壊し尽くされ、遥か彼方の新天地へ向かうことを余儀なくされた2万の人々の行進と、彼らを護衛する任務を受けたジークとノヴィア、この状況を利用してジークを追いつめようとする不穏な影が交錯する――といった内容。
 直接的な戦闘も何度かありますが、基本的にはただ目的地に向かって歩く人々の苦難の旅路が描かれています。その中に、色々な要素がぎゅっと濃縮されている感じで十分堪能させていただきました。レーベル的な限界か、「マルドゥック・スクランブル」等に比べてやや軽い感のあるこのシリーズですが、次第にウブカタ氏が暴走……じゃなくて、持ち味が出てきてるのが嬉しいところですね。

 キャラクターの話。ノヴィアはこれまでと同じく頑張ってました。特に今回は、一緒に歩いた人々から学ぶことも多かったようで。こういう経験の積み重ねが、彼らの旅の一つの終着点――「聖戦魔軍篇」での凛としたノヴィアに繋がっているのでしょうねー。そうそう、うっかり恋人たちの逢瀬を見てしまったあとのノヴィアの反応はパターンといえばそうだけどやっぱり微笑ましいなぁと思いました。いやぁ、若いっていいですね(笑) そして、01から登場のレオニスとトール。レオニスは真っ当に歪んでるといいましょうか。精神的に成長しつつも、自ら望んでジークと敵対する道を進む彼。彼もまた今回の事件に深く関わったことで幾つものモノを得、トールはトールで得がたい経験をして。彼らが今後、ジークやドラクロワといった「怪物」に何処まで匹敵できるのかも気になるところです。

 さて。最後に登場したジークと因縁のある3人の男女。彼らを尖兵とした、レオニスやトール、そしてドラクロワの織り成す策略に、ジークやノヴィアはどう立ち向かうのか。今後の展開に期待ですね。

 独り言。過去篇が続いてノヴィアの存在感が増すのに比例して、「聖戦魔軍篇」のみで登場のアーシアは存在感がいまいち薄く感じるなぁ……

 12/27 『デス・タイガー・ライジング3 再会の彼方』[荻野目悠樹/ハヤカワ文庫JA]

 千年に一度到来する<夏>を前に、生き残りを賭けた星間戦争を繰り広げる二つの星系の物語、通算9冊目。

 今回はようやく再会できたミレとキバの再びの別離と、流転する情勢と。前回は突っ走っていたミレが、情報部に身柄を抑えられたこともあって動きが制限された影響か、割と淡々と話が進んだ感じ。こういう展開になると、やはりもうちょっと踏み込んだ心理描写が欲しいなぁと思ってしまうんですよね。特にキバは、特殊な状態から人間性を取り戻しつつある人なんだから、その方面を描いてくれれば面白いだろうと思うだけに惜しい。

 キャラの話。『双星記』にも登場したリュウ少将が登場。特に何をしたわけではなくとも、なんとなく懐かしいというか話が繋がってるんだなぁと妙に納得してしまいました。あと、『双星記』で一番好きだったケイン・ラインバック氏も名前だけ登場。それでもあいかわらず良い人っぽいイメージが伝わってきたのがちょっと嬉しかったです。

 さて。割ととんでもない場面で終わっているのでこのあと彼らがどうなってしまうのか気になるところ。そして、もうしばらくで1巻冒頭のあの場面に繋がる時期だと思うのですが、どうしてまたああいう事態になってしまったのか。次巻完結とのことなので、その辺りにも当然言及があるでしょうし。適当に期待して待つことにします。

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