「アダルシャン」シリーズ4巻。グラーレン地方で起こった騒乱が決着します。
3巻でヘタレ扱いした兄王ですが、内幕が明らかに。……それならそれでもう少し匂わす表現が欲しかったなぁ、とか思ったりしなくもないですが、落ちた株が多少持ち直し。で、肝心の決着については、まぁ、あの状況で彼がああ出るならあの処分も妥当(むしろ大甘)といってもいいのではなかろうかと。
ところで、ここに至ってようやく自覚したんですが、私、この兄弟嫌いだ(きっぱり) いや、嫌いというかイライラするというかげんなりするというか勝手にやってろと言いたくなるというか……。アレクとユティのやりとりは好きなんだけどなぁ。
とりあえず一区切りついたので、これで完結なのでしょうか。……アレクとユティの行く末は気になるので続刊が読みたい気もするのですが、もれなく兄王がついてくるんだろうと考えると、もういいやと思わなくもない(本音)
トンデモぶりが楽しい作品を発表されている宇月原氏のデビュー後第1作、文庫化。今回は聚楽第を舞台に繰り広げられる伝奇小説です。
初めて読んだとき「この人アホか」(←褒め言葉)と割と本気で思ったものですが、久しぶりに再読した今回もその印象はあまり変わらなかったですね(笑) ちなみにこの作品のキーワードは、グノーシス主義と錬金術とラ・ピュセルとジル・ド・レ、それから異端宣告……今更ながら、どんな発想しているのかつくづく疑問です、この作者さん。まぁともあれ、これらの要素が実際の歴史の進行に織り交ぜられ、荒唐無稽としか言いようのない物語が展開されていきます。無茶苦茶なわりに、不思議と説得力もあるから不思議。つーか、どんなに無茶な事柄でもあくまでもっともらしく解説が述べられているせいで、わけが分からないうちに押し切られてしまっているような気が無きにしも非ず。
難をいうなら、クライマックスが早い時点(中盤を少し過ぎたあたり)なので、それ以降がやや冗長にも感じてしまうことでしょうか。それと、どちらかといえば文章が硬めということも手伝って、お世辞にも読みやすいとは言いがたいです。とりあえず、オカルト系に全く興味がないとしんどいかも。
最後に記された家康の言葉は、この異形の戦国絵巻の締めくくりに如何にも相応しいものと感じられました。ああ、これで終わったんだと。
表紙を見た瞬間に衝動買いした作品。いや、私はどっちかというと犬派なんですけど、それにしてもかわいい子猫が表紙に描かれていたら「あ、買わなきゃ」と思うでしょ人として(←理屈になってません)
さて、そんな衝動にあっさり屈して購入したこの作品ですが。内容は、死んだ人間の魂を導く役割を担う「鍵猫」となったものの右も左もわからない(おまけにそれまでの記憶すらもなくしてしまった)仔猫のニキが、初めて「扉」を開けるまでの物語。
読んだ感想としては、とりあえずニキのかわいさが全てだったような(←おい) まぁ、あとがきによれば「夢」の物語ということですし、少し不思議な猫たちの物語をあまりあれこれ考えず素直に楽しむのがいいのかもしれません。
なんだかんだでそれなりに良かったと思うので、なんとなくスルーしていた「犬神遣い」のほうも買ってみようかなぁ。
微量のSF要素を含んだ正統派異世界ファンタジー8巻目。今回は、国境でのタートム侵略軍との戦闘が中心。
内乱編がいま一つ物足りなかったので、「集団戦闘は苦手なのかな?」と失礼なことを考えていたのですが、ごめんなさいと謝りたい気分になりました。いや、今回も多少首を傾げる部分はありましたが、それでも素直に面白かったです。やっぱり、敵方にも実力のある将がいると違ってくるということでしょうかね。
登場人物の話。今回は対タートム国境防衛戦ということで、前回までフォルナム神殿にいたフェリオたちは必然的に出番減少。その代わりというのもなんですが、フェリオと別行動だったためしばらく出番の無かった隊ちょ……じゃなくてベルナルフォンが活躍。さらに彼が復帰したり思いがけないあの人が良いところを見せてくれたり今後が楽しみな人が登場したりと、なかなか素敵なことになって満足。最愛がパンプキンなのは動きそうにないけど、メガネのお兄さんも素敵そうなキャラだなぁ、とちょっと思ったり(←悪趣味)
そして、最後になりましたが(重度のネタバレなので反転)[ウルク回復ばんざーい!] これはもうちょっと引っ張るかと思ってたので意表をつかれましたが、もうこの際そんなことはどうでもいいや。とりあえず、当事者たちは(肝心の人はともかく)随分意識が変わってきているし、これは今後どう関係が動いていくのか楽しみですねっ!(無駄に力強く)
ところで、なんだかあちこちで恋愛化フラグが立ちまくってたような気がするのは私の気のせいでしょうか。
縞田理理さんの新作。雑誌デビューを飾った表題作他、3作品が収録されています。
多少怪しい雰囲気があるような気がしなくもないけど、基本的には家族だったりペットに向ける類の愛情なのでまぁOK? 3話目の「パーフェクト・ブリーディング」からは、ちょっと生意気だけどかわいい女の子なリズも登場するし。つーか「パーフェクト~」では、ハーパーの計画についふきだしましたよ。ハルが猛烈に却下していたこの計画ですが、書き下ろしの「雨上がり、虹の浮かんだ水たまり」を読んだ印象では、そのうち実現する可能性もありそうだよなぁ、と思ったり思わなかったり。
これ1冊で完結でもおかしくない感じですが、このままほのぼの路線で続刊が発売されたら嬉しいなーとひっそり希望。
成田さんの新作。『電撃hp』に掲載された短編3本に加え、書き下ろしの中編が1本収録されています。
針山さんはもっと積極的に(?)話に絡んでくるのかと思いきや、大体の場合「通りすがりの人」とか「隣の家の人」ぐらいの役割だったのがちょっと意外でした。それはさておき内容はというと、雑誌掲載の3本はそれぞれ独立した作品で、最後の書き下ろしでいつもの群像劇にもっていく、というパターン。気に入ったのは「としれじぇ」かな。Bパートのアホらしさが好き(笑) 次点は「拝啓、光の勇者様」。珍しくバッドエンド風味の話でこういうのも面白いなぁと思ったのですが、最後の書き下ろしで(完全ではないにしろ)ハッピーエンドに持ち込むあたりは、やっぱり成田さんだなぁと思ったり思わなかったり。
ただ、全編通して良くも悪くも完全に振り切れたキャラがいないので、そういうのを期待していたら少し物足りないかもしれません。
現在も不定期連載中とのことなので、そのうち2巻も発売されるのだろうと適当に楽観しておくことにします。
古橋さんの新作は、時間SF要素を使ったボーイ・ミーツ・ガールな短編集。
しみじみと良かったです。あとがきに「“短編”という形式もまた面白くて。なにしろ尺が短くて(中略)「おっ」と思う場面を切り出していくような形になります」と書かれていましたが、その切り出し方が流石に上手い。贅沢な材料を惜しげもなく使ったコース料理で、特に選りすぐりの美味しいところだけを食べさせてもらいました、みたいな感じ。
ちなみに、個人的お気に入りは「恋する死者の夜」。この作品集の中ではやや異色な雰囲気の作品で、酷く静かで虚ろな世界が冷やりとした恐ろしさ、行き場を失った絶望というようなものを感じさせてくれます。
先日購入した『鍵の猫』がなかなか良かったので、デビュー作とその続編も購入してみました。表紙の、外見子犬な晶の犬神がとってもぷりてぃ(うっとり)
で、デビュー作のこの話。あらすじからも判るように晶の宗家就任にまつわる話で、晶の異父姉である翠と、翠の元婚約者の誠人との関係、そして澱みを抱えた唆神家の事情を軸に展開していきます。読了後の感想としては、まぁ普通に面白かったというところ。
登場人物の話。とりあえず、晶は男の子だと思い込んでいたのですが実際は女の子で、ちょっと驚いたりしました。とにかく彼女、なかなか強くて格好良かったので好印象。……しかし、翠と誠人の微妙な関係は何か事情があるんだろうなーと思っていましたが、そういう事情だったのか……。これもまた唆神家の澱みがもたらしたものとはいえ、なんともやるせない気分。でも、最後には翠も無理やりでも前を向いて、力強く歩き始めてくれたので一安心でした。
唆神家を背負う覚悟を決めた晶ですが、彼女の初仕事はどうなるのか。それはまた、2巻で語られています。
デビュー作の続編。宗家となった晶の初仕事は、先代宗家の「置き土産」を処分することだった……と、そんな内容。
感想。この手の小説としては無難に面白い、という印象。とりあえず、晶の側が単純に「正義」じゃないあたりはシビアで良かったと思います。将来的な危険性を考えれば排除に動く晶たちに納得できるんだけど、目の前の悪事に怒りを感じてそれを裁こうとする菜都美の気持ちも否定しきれないし……まぁこれに関しては、ああいう犯罪に走る連中は万死に値すると個人的に考えてることも影響してるでしょうが。
登場人物に関しては、唆神家の3人の関係はこれ以上大きく動くことはなさそうかなー。まだ若干不安定な気がする翠も、時間が経てば割り切っちゃいそうだし。あと、今回初登場の陰陽師一族・青砥家の兄弟は、いろいろご愁傷様でした、といった感じですね(笑)
このままシリーズ化するとしたら、やっぱり地道に依頼を片付けていくことになるんでしょうか。それはそれで楽しみな気もするけど、ここのレーベルは下手に長期化するといつまでも延々と続ける印象があるから、それがちょっと不安材料かも。
あらすじを読んでなかなか面白そうだったので購入してみた作品。
笑い転げるということはなかったけれど、話がテンポよく転がったり住人たちの抱える事情が思わぬ形で繋がっているの判明したりするのが、読んでいて楽しかったです。「なんでもいいからとにかくハンコをっ!」とばかりに東奔西走する志郎の一人称が、切羽詰った状況の割には適度に力が抜けているのもまた良し。
……しかし、諸悪の根源の扱いはなんだかなぁ。あーいうヤツは生理的に好かんから、余計に腹が立つ……。
この終わり方だと続きはなさそうな感じですが、志郎とその周辺以外のメンバー入れ替えてなら続編もありかなぁ、と思ったり思わなかったり。
「パラケルススの娘」第2巻。今回は、日本から遼太郎の義妹である和音と婚約者の美弥子が訪ねてくることから始まります。
……色々と展開予想はしていたのですが、全く予想していなかったラブコメ分の大増量に驚きました。とりあえず、遼太郎にしっかりして欲しいと思うあまりついきつく当たってしまう美弥子さんが良い感じ。朝食絡みの一連の場面が特に良い。えぇい、遼太郎の朴念仁め。あと、もう一人今回メイン扱いされていた「地下迷宮の王女」様、メガエラ。この子はやっぱり最後のちょっとふてくされてるところがかわいいなぁと思いました。えぇい、遼太郎の(以下略)
メインのストーリィのほうは、倫敦の地下世界を支配する「女主人」の依頼でクリスティーナ(+遼太郎)が裏切り者を追う、といった内容で、普通に面白かったという感想。ついでにいうと、前回はどうにも頼りなかった遼太郎が少し成長して出来ることを頑張っていたのは好印象でした。また、クリスティーナの謎や「評議会」の存在、何の力もないと思われている遼太郎が持つ秘めた力など様々な設定も仄めかされ、この先の展開に興味を感じさせてくれます。
あとがきによれば、今回あまり目立たなかった和音ちゃんが次巻では活躍してくれるようで。どんな話になるのか楽しみです。